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自習室
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先輩との待ち合わせ場所は自習室だ。
学園の中には、予約制で借りることのできる自習室がいくつかある。
律葉が昨日先輩に許可を取って来てくれたので、自習室は俺が予約しておいたのだ。
「はぁ~。良い点取らないといけないことは分かってるんだけど、憂鬱だぁ」
自習室へ向かう道すがら、律葉が大きなため息を吐きながら嘆いた。
「大丈夫だよきっと。だって、辰巳先輩に勉強を見てもらえるんだから! それに、律葉だって休む期間があって追いついていないだけで、頭良いんだからさ」
「そんなことないけど」
むぅと唇を突き出して不満げにしている律葉は、オメガだ。
俺と違って、3ヶ月に1度発情期が来る。その間勉強どころか食事も手に付かないらしい。
実際、俺は発情期になったことがないので、その辛さは分からないけど、オメガが頭が悪いと馬鹿にされるのはその影響が大きいと思う。ただ、アルファやベータのように思うように生活ができないだけなのだ。だから決してオメガだから頭が悪いということはない。
まぁ、俺は発情期もないのに勉強ができないただのアホなのだが。
「せっかくなら、良い点を取った生徒にご褒美とかくれたら、俺も頑張れるんだけどなぁ」
「あはは。道ってば、成績は今のままで良いなんて言ってたけど、赤点ギリギリばっかりなんだから、ご褒美なくても頑張らないと。僕は道の先輩になるなんて嫌だからね?」
「うぅ……はい。頑張ります」
俺だって律葉だけ進級してしまうのは嫌だ。
それに、こんな俺を引き取って育ててくれた義母さんたちに迷惑をかけるわけにはいかないし、この際なので本腰を入れて勉強をすることにしよう。
「っと、ここだ」
今日借りた自習室の前にたどり着いた。
一応ノックをして入ると、先輩はもうすでに来ていて、本を読んでいた。
俺たちが来たことに気がつくと、先輩は本から顔を上げ、立ち上がった。
「先輩、今日からよろしくお願いしますっ」
律葉が元気よく頭を下げるので、俺もおずおずと頭を下げた。
もちろん先輩は優しいのでお邪魔虫すぎる俺を邪険にすることはない。
「ああ」と頷いた先輩はいつも通りの優しい響きの声だった。
4つある席の窓側の端っこに座った俺の隣に律葉が座って、その向かいに先輩が座った。
勉強を始めてすぐ律葉はここぞとばかりに質問しまくり、先輩はそれに優しく応えていく。先輩の律葉に対する優しくも分かりやすい講義の声を聞きながら、俺も違う科目の問題集をめくった。
問題集の問題が解けない。
いや、問題の意味すらわからない。
横からは低く響く心地の良い声。
それも、異国の言葉の講義である。
勉強すると意気込んでいたのは良いものの、それはそれは上質な子守唄を聞きながら、俺はいつのまにか眠りについていた。
目を覚ましたとき、俺は机に突っ伏して顔を窓に向けていた。
いつの間にか異国の講義は終わったらしい。
部屋の中は静かで、窓からは夕日が差し込んでいた。
ああ。俺、寝ちゃってたのか。ってことは実質、先輩は律葉と二人きりだったってことか。
もしかしたら今頃寮まで一緒に帰っていたりして。そうだとしたらそれはもう立派な放課後デートだろう。
決してわざとではないが、これはナイスアシストを決めたのではないだろうか。
「んんっ」
伸びをしながら起き上がると、ポキポキと背中が鳴る。
その時、肩からファサっと何かが落ちた。
「制服……?」
それは俺の制服よりも二回りは大きそうな制服のジャケットだった。
これって先輩の……?
「起きたのか」
「っ!?」
突然声をかけられて慌ててその声の出所を確認すると、先輩が自習室のドア付近に椅子をおいてそこに座っていた。どうやら、ドア付近にあるコンセントに、照明スタンドを差し込んで、手元だけを明るくして本を読んでいたらしい。
「よく眠っていたな。律葉は先に帰ったぞ」
「あ……そ、うなんだ。迷惑かけちゃったみたいですみません。ジャケットも、かけてくれて、ありがとうございます」
普段、セックスもしている仲だというのに、なんだか気まずかった。
けれど先輩は「気にするな」と言って読んでいた本をパタリと閉じた。
「疲れているのかも知れないが、明日からは寝ないようにしろよ。成績やばいんだろう?」
「ぅう。律葉に聞いたんですか?」
「ああ。勉強を俺に教われと言ってくれたのもお前らしいいな」
「うん、そうだよ。俺、今日は寝ちゃったけど……。律葉とはたくさん話せた?」
「まぁ、ずっと勉強を教えていただけだからな。だが、お前も色々気を使ってくれたんだろう。ありがとうな」
先輩は俺のところまで歩いて来て、俺の頭を撫でてくれた。
「へへ。やった。先輩に褒められた」
「テストで良い点を取ればもっと褒めてやるぞ」
「本当? じゃ、俺頑張っちゃおう」
先輩にまたこうして頭を撫でてもらえるならば、やる気が湧いてきた。
先輩は甘やかしたいタイプなだけあって、甘えなくても甘やかしてくれる。
それがなんだか嬉しいけど、俺相手にそこまで優しくしなくても、と申し訳ない気持ちや居心地の悪さを感じていた。
学園の中には、予約制で借りることのできる自習室がいくつかある。
律葉が昨日先輩に許可を取って来てくれたので、自習室は俺が予約しておいたのだ。
「はぁ~。良い点取らないといけないことは分かってるんだけど、憂鬱だぁ」
自習室へ向かう道すがら、律葉が大きなため息を吐きながら嘆いた。
「大丈夫だよきっと。だって、辰巳先輩に勉強を見てもらえるんだから! それに、律葉だって休む期間があって追いついていないだけで、頭良いんだからさ」
「そんなことないけど」
むぅと唇を突き出して不満げにしている律葉は、オメガだ。
俺と違って、3ヶ月に1度発情期が来る。その間勉強どころか食事も手に付かないらしい。
実際、俺は発情期になったことがないので、その辛さは分からないけど、オメガが頭が悪いと馬鹿にされるのはその影響が大きいと思う。ただ、アルファやベータのように思うように生活ができないだけなのだ。だから決してオメガだから頭が悪いということはない。
まぁ、俺は発情期もないのに勉強ができないただのアホなのだが。
「せっかくなら、良い点を取った生徒にご褒美とかくれたら、俺も頑張れるんだけどなぁ」
「あはは。道ってば、成績は今のままで良いなんて言ってたけど、赤点ギリギリばっかりなんだから、ご褒美なくても頑張らないと。僕は道の先輩になるなんて嫌だからね?」
「うぅ……はい。頑張ります」
俺だって律葉だけ進級してしまうのは嫌だ。
それに、こんな俺を引き取って育ててくれた義母さんたちに迷惑をかけるわけにはいかないし、この際なので本腰を入れて勉強をすることにしよう。
「っと、ここだ」
今日借りた自習室の前にたどり着いた。
一応ノックをして入ると、先輩はもうすでに来ていて、本を読んでいた。
俺たちが来たことに気がつくと、先輩は本から顔を上げ、立ち上がった。
「先輩、今日からよろしくお願いしますっ」
律葉が元気よく頭を下げるので、俺もおずおずと頭を下げた。
もちろん先輩は優しいのでお邪魔虫すぎる俺を邪険にすることはない。
「ああ」と頷いた先輩はいつも通りの優しい響きの声だった。
4つある席の窓側の端っこに座った俺の隣に律葉が座って、その向かいに先輩が座った。
勉強を始めてすぐ律葉はここぞとばかりに質問しまくり、先輩はそれに優しく応えていく。先輩の律葉に対する優しくも分かりやすい講義の声を聞きながら、俺も違う科目の問題集をめくった。
問題集の問題が解けない。
いや、問題の意味すらわからない。
横からは低く響く心地の良い声。
それも、異国の言葉の講義である。
勉強すると意気込んでいたのは良いものの、それはそれは上質な子守唄を聞きながら、俺はいつのまにか眠りについていた。
目を覚ましたとき、俺は机に突っ伏して顔を窓に向けていた。
いつの間にか異国の講義は終わったらしい。
部屋の中は静かで、窓からは夕日が差し込んでいた。
ああ。俺、寝ちゃってたのか。ってことは実質、先輩は律葉と二人きりだったってことか。
もしかしたら今頃寮まで一緒に帰っていたりして。そうだとしたらそれはもう立派な放課後デートだろう。
決してわざとではないが、これはナイスアシストを決めたのではないだろうか。
「んんっ」
伸びをしながら起き上がると、ポキポキと背中が鳴る。
その時、肩からファサっと何かが落ちた。
「制服……?」
それは俺の制服よりも二回りは大きそうな制服のジャケットだった。
これって先輩の……?
「起きたのか」
「っ!?」
突然声をかけられて慌ててその声の出所を確認すると、先輩が自習室のドア付近に椅子をおいてそこに座っていた。どうやら、ドア付近にあるコンセントに、照明スタンドを差し込んで、手元だけを明るくして本を読んでいたらしい。
「よく眠っていたな。律葉は先に帰ったぞ」
「あ……そ、うなんだ。迷惑かけちゃったみたいですみません。ジャケットも、かけてくれて、ありがとうございます」
普段、セックスもしている仲だというのに、なんだか気まずかった。
けれど先輩は「気にするな」と言って読んでいた本をパタリと閉じた。
「疲れているのかも知れないが、明日からは寝ないようにしろよ。成績やばいんだろう?」
「ぅう。律葉に聞いたんですか?」
「ああ。勉強を俺に教われと言ってくれたのもお前らしいいな」
「うん、そうだよ。俺、今日は寝ちゃったけど……。律葉とはたくさん話せた?」
「まぁ、ずっと勉強を教えていただけだからな。だが、お前も色々気を使ってくれたんだろう。ありがとうな」
先輩は俺のところまで歩いて来て、俺の頭を撫でてくれた。
「へへ。やった。先輩に褒められた」
「テストで良い点を取ればもっと褒めてやるぞ」
「本当? じゃ、俺頑張っちゃおう」
先輩にまたこうして頭を撫でてもらえるならば、やる気が湧いてきた。
先輩は甘やかしたいタイプなだけあって、甘えなくても甘やかしてくれる。
それがなんだか嬉しいけど、俺相手にそこまで優しくしなくても、と申し訳ない気持ちや居心地の悪さを感じていた。
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