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「なんて、言った?」

笹原が聞き返すので、僕は繰り返した。

「だから、僕はあと半年くらいしか生きられないんだ。実際のところ、余命がそれってだけで、あと半年が保証されているわけでも、限定されているわけでもないんだけど」
「なんで……、なんでそんなに軽く言うんだよ」

笹原は悲壮な顔をしてそう呟いた。

「余命宣告されてからも半年経ってるし、その間にいろいろあったから。ずっと絶望しながら生きてきたから、慣れてるしね」
「そんなのに慣れないでくれよ」
「はは。うん、そうだね。まぁでも、今は死ぬのは怖くないんだ。待っててくれる人がいるし、それに、この世界に生きてたって証拠も残せたし。そう思えたのは、やっぱり笹原のおかげだから。伝えておきたかったんだ」
「待っててくれてる人って、千景君にマーキングしたアルファ?」
「うん。そうだよ」

にっこりと笑って答えると、笹原は複雑そうな顔で僕を見た。
けれど、その後何も言われることはなかった。

学校から帰ろうと、門に向かうと見覚えのある派手な車が1台止まっていた。

「千景。学校お疲れさま。迎えにきたわよ」
「母さん。随分久しぶりだね。どうしたの? いきなり。僕を迎えに来るなんて、らしくないよ」
「あら、そんなことないわよ。なんてったって、私はあなたの母親ですもの」

その笑顔が気持ち悪くて、僕は顔を歪めた。
母親は僕のその表情を良い意味に捉えたのか嬉しそうに、まるで感動の場面のように抱き寄せようとしてきた。
それを避けるとあからさまにムッとした顔をして、それを取り繕うようにまた笑顔になる。

母親の考えていることが手に取るようにわかった。

「母さん。新聞かニュースで僕を見たんだ?」
「なんのこと?」

とぼけるように言う母親に心底腹が立つ。
今目の前にいるのは、たった1人の息子が身を削って作ったものを、金としか見ることができない化け物だ。
こんな人が自分の母親だなんて腹が立つ。
こんな人の愛を欲しがってた自分が悔しい。

「母さん、無駄だよ。僕の稼いだお金は、必要な分以外は全額寄付してる。著作権に関しても僕の本を出してくれた出版社に買い取ってもらってるから、母さんが今更そんな態度で僕に接したところで、なんのおこぼれもないよ」
「何よそれ! なんでそんな勝手な事をするの!? あなたをここまで育てるために一体いくら使ったと思ってるの!!?」
「……小学校を卒業するまでの12年間のお金は、確かにあなた方が出したかもしれない。でもそれからは僕は自分で稼いだお金で生きてた。12歳までの費用はむしろあなた方から振るわれた暴力の慰謝料で相殺されるくらいだ」

母親の体がわなわなと震える。

「親が子に振るう暴力なんて、躾でしょう! 生意気言ってないで、早く寄付を取り消してきなさい!!」

耳をつんざくような叫び声にうんざりしながら僕は答えた。

「取り消しはできません。僕の寄付したお金はすでに色々なところで役に立っているはずですから」
「御託は良いから取り消しなさい!! クソガキ!! 親の言う事を聞け!!」

騒ぎまくる母親は、誰かが呼んだ警察が連行して行った。
髪を振り乱して、訳のわからない事を叫ぶ母親の姿を思い出し、僕はただ悲しくなった。
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