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あれから少しばかり時がすぎて、余命通りなら僕の人生も残すところあと半年となっていた。
両親は和解で解決したらしくて、病院を退院したらしいのは知っていたけれど、2人とも一度も家には帰ってきていない。
僕が愛されることなんてないんだと諦めて生きてきて、それでも青砥と出会って愛されるって事を経験して、それも裏切られて捨てられて。
だけど、僕の心の中を吐き出すように書き殴った、決して綺麗とは言えない小説が、誰かの心に止まったのを知ってから、僕は自分に自信が持てるようになった。
読んでくれている人が、例え笹原たった1人だとしても、僕がこの世に何も残せなかったと思いながら死ぬよりは、最高の人生だったと自分を褒められる。
ずっとずっと、編集の人から誘われていたけど自分に自信がなくて、今まで断っていた、サイン会に行くことにした。
「千景先生。準備はいいですか?」
担当編集の方が、僕に声をかけてくる。
僕はペンネームもそのままなので、反応が遅れることもなくてよかった。
大きな本屋さんの一角で行われるサイン会。
人の前に出ることに不安はあった。
1人も来てくれないんじゃないかと昨日の夜は眠れなかった。
けれど、僕がこの世界に生きていたんだと胸を張れるように会場への扉の前に立つ。
扉を開けた編集の方の後ろを歩けば、そこに待機していた多勢の人の姿が目に入った。
『え、あの人が千景先生?』
僕の姿を見てがっかりされたのだろうかと、ビクリと肩がはねた。
『うっそ。めっちゃイメージ通り! 素敵』
続いた言葉に僕は面食らった。
そしてその後も僕を褒める言葉が聞こえる。
僕は人々の優しさにまるで初めて触れたように感じながら、今までの自分を後悔していた。
だって、手を伸ばせばきっと、こんなふうに僕を受け入れてくれる人が居たはずだった。
ここにいる人はみんな、僕の作品が好きだと言ってくれた。
1人1人に感謝しながら、握手とサインを繰り返し、嬉しさや、感動で溢れ出そうになる涙を堪えるので精一杯だった。
「千景君!」
「……笹原?」
目の前にはニコニコの笹原がいた。
「千景先生って、千景君だったんだ! 名前同じだけど、そんな可能性全然考えてなかった! それなのに、千景君の書いた本をお勧めしたり、あんなテンション上がって話しちゃって恥ずかしいな。でも、千景先生に会えて俺、本当に嬉しいよ! 今日はサイン会してくれてありがとう。これからも応援してます」
笹原は、頬を掻き、照れ臭そうに握手を求めて、サインをしてくれと、前に僕に貸そうとしてくれた小説を差し出してきた。
僕がその小説にサインして笹原君へと書き足すと本当に嬉しそうに本を胸に抱いて、列から離れていった。
僕も今日はずっととても嬉しくて、達成感がある1日だった。
それからその様子は新聞やネットニュースなどに流れたらしい。
学校でもわりと騒がれた。
青砥や和樹の言い分を一方的に信じて、僕を遠巻きにしてたやつまで、掌を返したように僕に寄ってきて、それを笹原が阻止してくれるのが本当に嬉しかった。
「笹原、いつもありがとう」
笹原にお礼を言うと、笹原は困ったように笑った。
「俺も、あいつらとなんも変わんないからな」
「笹原にはいつも助けられてるよ」
「でも俺も、最初の頃千景君がいじめられてるの、見て見ぬ振りしてた。同罪だ」
「確かにあの頃は辛かったけど、笹原にはほんと感謝してるんだ。僕の小説のファンで居てくれたし、笹原が居なかったら僕は今こうして居られなかったかもしれない」
「千景くん……」
「だから、笹原には言っておこうと思う」
「何を?」
笹原は不安そうに僕を見つめた。
「僕はね、あと半年しか生きられないんだ」
「………………え?」
笹原は何を言われたのか分からないと言うようにぽかんとした顔をした。
両親は和解で解決したらしくて、病院を退院したらしいのは知っていたけれど、2人とも一度も家には帰ってきていない。
僕が愛されることなんてないんだと諦めて生きてきて、それでも青砥と出会って愛されるって事を経験して、それも裏切られて捨てられて。
だけど、僕の心の中を吐き出すように書き殴った、決して綺麗とは言えない小説が、誰かの心に止まったのを知ってから、僕は自分に自信が持てるようになった。
読んでくれている人が、例え笹原たった1人だとしても、僕がこの世に何も残せなかったと思いながら死ぬよりは、最高の人生だったと自分を褒められる。
ずっとずっと、編集の人から誘われていたけど自分に自信がなくて、今まで断っていた、サイン会に行くことにした。
「千景先生。準備はいいですか?」
担当編集の方が、僕に声をかけてくる。
僕はペンネームもそのままなので、反応が遅れることもなくてよかった。
大きな本屋さんの一角で行われるサイン会。
人の前に出ることに不安はあった。
1人も来てくれないんじゃないかと昨日の夜は眠れなかった。
けれど、僕がこの世界に生きていたんだと胸を張れるように会場への扉の前に立つ。
扉を開けた編集の方の後ろを歩けば、そこに待機していた多勢の人の姿が目に入った。
『え、あの人が千景先生?』
僕の姿を見てがっかりされたのだろうかと、ビクリと肩がはねた。
『うっそ。めっちゃイメージ通り! 素敵』
続いた言葉に僕は面食らった。
そしてその後も僕を褒める言葉が聞こえる。
僕は人々の優しさにまるで初めて触れたように感じながら、今までの自分を後悔していた。
だって、手を伸ばせばきっと、こんなふうに僕を受け入れてくれる人が居たはずだった。
ここにいる人はみんな、僕の作品が好きだと言ってくれた。
1人1人に感謝しながら、握手とサインを繰り返し、嬉しさや、感動で溢れ出そうになる涙を堪えるので精一杯だった。
「千景君!」
「……笹原?」
目の前にはニコニコの笹原がいた。
「千景先生って、千景君だったんだ! 名前同じだけど、そんな可能性全然考えてなかった! それなのに、千景君の書いた本をお勧めしたり、あんなテンション上がって話しちゃって恥ずかしいな。でも、千景先生に会えて俺、本当に嬉しいよ! 今日はサイン会してくれてありがとう。これからも応援してます」
笹原は、頬を掻き、照れ臭そうに握手を求めて、サインをしてくれと、前に僕に貸そうとしてくれた小説を差し出してきた。
僕がその小説にサインして笹原君へと書き足すと本当に嬉しそうに本を胸に抱いて、列から離れていった。
僕も今日はずっととても嬉しくて、達成感がある1日だった。
それからその様子は新聞やネットニュースなどに流れたらしい。
学校でもわりと騒がれた。
青砥や和樹の言い分を一方的に信じて、僕を遠巻きにしてたやつまで、掌を返したように僕に寄ってきて、それを笹原が阻止してくれるのが本当に嬉しかった。
「笹原、いつもありがとう」
笹原にお礼を言うと、笹原は困ったように笑った。
「俺も、あいつらとなんも変わんないからな」
「笹原にはいつも助けられてるよ」
「でも俺も、最初の頃千景君がいじめられてるの、見て見ぬ振りしてた。同罪だ」
「確かにあの頃は辛かったけど、笹原にはほんと感謝してるんだ。僕の小説のファンで居てくれたし、笹原が居なかったら僕は今こうして居られなかったかもしれない」
「千景くん……」
「だから、笹原には言っておこうと思う」
「何を?」
笹原は不安そうに僕を見つめた。
「僕はね、あと半年しか生きられないんだ」
「………………え?」
笹原は何を言われたのか分からないと言うようにぽかんとした顔をした。
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