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33 帰国
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それからは、海や川で魚を獲ったり、森で果物や木の実を取ったりして半年ほど楽しく過ごした。
家からの行動範囲を広げていくと、広い森を抜けてしばらく行ったところに街があるのが分かった。
母国と比べると少しだけ趣の違う建物で、見て回るだけで結構楽しい。
そこの酒場で俺たちの母国の噂話を聞くとあまり良い話は聞けなかった。
なんでも軍の上層部の連中を中心に軍関係の多くの人間が1人の兵に入れあげて、正常な判断も下せなくなり、それにより相当問題になっているらしい。
噂のその兵は今は精神的におかしくなっており、常に訳のわからないことを喚いているそうだ。
そんな国として隠さなければならないような話も、他の国で噂になっていると言うことは、母国もかなり弱っているのだろう。
俺は、その街からユリスたちに手紙を送った。
その日は家に戻り、何日かしてからまた街に行くと、ユリスからの返事が届いていた。
手紙をもらえて嬉しいこと、最近身近で起こったこと、そしてニコルのこと。
ユリスからの手紙によれば、ニコルのせいで大袈裟でも何でもなく国が傾きかけたらしい。
街で噂になっていた話はほとんど事実で、軍の上層部が入れあげていたのがニコルだったらしい。ニコルに関わった上層部の人間は一人残らず更迭された。一時期は国もかなりやばかったが、今は良い方に変わろうとしているところだから、力を貸して欲しい。戻って来て欲しいと書いてあった。
エドガーと俺はその手紙を読んで、国に帰ることにした。
2人だけで過ごした数ヶ月はとても楽しかった。
だけれど、このままここで一生過ごすことはできないなと感じていた。
知り合いに連絡を取るのもほぼ1日をかけて森を越えた先の街に行かなければいけないし、一生サバイバル生活というのもかなり大変だ。
国へ足を踏み入れると、いつかの凱旋の時のように街の人に受け入れられた。
大きな歓声に驚きつつも、走り寄って来た兵に連れられて着いた場所は、上層部の執務室だった。
ドアを開け、その中に入ると出迎えてくれたのはユリスだった。
「え? ユリス?」
「お帰りなさい。ジル隊長……とエドガー教官」
「俺はついでか」とエドガーがボソリと拗ねたような声を出した。
「えっと、ただいま。でも何でユリスがここにいるんだ?」
「はい。国の混乱の際に、数合わせのような感じで上層部の一員に抜擢されたんです。けど、仕事はちゃんと数合わせと思われないように頑張ってますよ!」
「そ、うなのか。ちょっとビックリしすぎてなんて言っていいのか。とりあえずおめでとう」
「ははっ。ありがとうございます。お二人には色々手伝っていただきたいことがあったので戻って来ていただけて良かったです」
にこやかに話すユリスの姿は、俺たちが国を出る前から、たった半年しか経っていないのに随分と頼もしくなったように感じた。男子三日会わざれば何ちゃらってことか。
とりあえず詳しい話は明日聞くとして、今日は長旅の疲れもあるだろうと解散になった。
「あの屋敷はそのままジル隊長のものですから、そちらにお帰りください」
「え? 本当か。ありがとう」
ユリスの言葉に驚きつつ、嬉しい気持ちで屋敷に帰ると何もかも半年前のまま残されていて、すぐに寛げた。
「疲れたな」
紅茶を差し出し向いのソファに座りながらエドガーがそう言った。
「そうだな。だが、みんな元気そうで良かった」
国が傾きかけたと言うのに逞しく頑張っているユリスがキラキラと輝いて見えた。
紅茶を一口飲んでホッと一息つく。
ユリスが光だとすれば、ニコルは闇なのだろうか。
ニコルとは話しても分かり合えないかもしれないとは思うが、ここに戻って来たからには一度ゆっくりと話しておきたいなと思った。
家からの行動範囲を広げていくと、広い森を抜けてしばらく行ったところに街があるのが分かった。
母国と比べると少しだけ趣の違う建物で、見て回るだけで結構楽しい。
そこの酒場で俺たちの母国の噂話を聞くとあまり良い話は聞けなかった。
なんでも軍の上層部の連中を中心に軍関係の多くの人間が1人の兵に入れあげて、正常な判断も下せなくなり、それにより相当問題になっているらしい。
噂のその兵は今は精神的におかしくなっており、常に訳のわからないことを喚いているそうだ。
そんな国として隠さなければならないような話も、他の国で噂になっていると言うことは、母国もかなり弱っているのだろう。
俺は、その街からユリスたちに手紙を送った。
その日は家に戻り、何日かしてからまた街に行くと、ユリスからの返事が届いていた。
手紙をもらえて嬉しいこと、最近身近で起こったこと、そしてニコルのこと。
ユリスからの手紙によれば、ニコルのせいで大袈裟でも何でもなく国が傾きかけたらしい。
街で噂になっていた話はほとんど事実で、軍の上層部が入れあげていたのがニコルだったらしい。ニコルに関わった上層部の人間は一人残らず更迭された。一時期は国もかなりやばかったが、今は良い方に変わろうとしているところだから、力を貸して欲しい。戻って来て欲しいと書いてあった。
エドガーと俺はその手紙を読んで、国に帰ることにした。
2人だけで過ごした数ヶ月はとても楽しかった。
だけれど、このままここで一生過ごすことはできないなと感じていた。
知り合いに連絡を取るのもほぼ1日をかけて森を越えた先の街に行かなければいけないし、一生サバイバル生活というのもかなり大変だ。
国へ足を踏み入れると、いつかの凱旋の時のように街の人に受け入れられた。
大きな歓声に驚きつつも、走り寄って来た兵に連れられて着いた場所は、上層部の執務室だった。
ドアを開け、その中に入ると出迎えてくれたのはユリスだった。
「え? ユリス?」
「お帰りなさい。ジル隊長……とエドガー教官」
「俺はついでか」とエドガーがボソリと拗ねたような声を出した。
「えっと、ただいま。でも何でユリスがここにいるんだ?」
「はい。国の混乱の際に、数合わせのような感じで上層部の一員に抜擢されたんです。けど、仕事はちゃんと数合わせと思われないように頑張ってますよ!」
「そ、うなのか。ちょっとビックリしすぎてなんて言っていいのか。とりあえずおめでとう」
「ははっ。ありがとうございます。お二人には色々手伝っていただきたいことがあったので戻って来ていただけて良かったです」
にこやかに話すユリスの姿は、俺たちが国を出る前から、たった半年しか経っていないのに随分と頼もしくなったように感じた。男子三日会わざれば何ちゃらってことか。
とりあえず詳しい話は明日聞くとして、今日は長旅の疲れもあるだろうと解散になった。
「あの屋敷はそのままジル隊長のものですから、そちらにお帰りください」
「え? 本当か。ありがとう」
ユリスの言葉に驚きつつ、嬉しい気持ちで屋敷に帰ると何もかも半年前のまま残されていて、すぐに寛げた。
「疲れたな」
紅茶を差し出し向いのソファに座りながらエドガーがそう言った。
「そうだな。だが、みんな元気そうで良かった」
国が傾きかけたと言うのに逞しく頑張っているユリスがキラキラと輝いて見えた。
紅茶を一口飲んでホッと一息つく。
ユリスが光だとすれば、ニコルは闇なのだろうか。
ニコルとは話しても分かり合えないかもしれないとは思うが、ここに戻って来たからには一度ゆっくりと話しておきたいなと思った。
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