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31 国外へ

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なんだかんだエドガーとこの先について話し合い、結局最終的には荷物をまとめて3日後にはこの国を発つことになった。

俺がやらないなら誰かが前戦に行くことになるのだろう。
俺がそんなのは嫌だと言うと、エドガーは苦笑いで言った。

「ジルがそんな風に考えるような人間性だってことは分かってるし、そこが好きだが、考えてみてくれ。そいつはジルが行けばジルに感謝もせずのうのうと安全な場所を謳歌する人間なはずだ。お前が気にかけてもらっていないのに、相手を気にかける必要なんてないだろ」
「でも」
「ジルの言うことに従いたいところだが、国外逃亡はもう決定事項だ。ジルはもうその若さで多勢の人間を救ったんだ。だからこの先、少しくらい自由に生活しても良いはずだろ」

ニヤリとシニカルに笑ってそんなことを言う姿は、前の世界のエドガーでは考えられない姿だ。
環境は人を変える。
前の世界のエドガーなら仲間のために最後まで戦うことを選んだだろう。
だが、前の世界のエドガーとは違うところも多くなっているこのエドガーを好きになったのは俺自身だ。これからは逃亡生活だと言うのに、俺を好きだと言ってくれるようになった目の前の男と一緒だと思うと少しだけワクワクした気持ちになる。

エドガーの泣き顔を見てからは、なぜだか不思議と心が落ち着いて、エドガーはこの先俺を裏切らないのだろうと信じられる気がしているんだ。

3日後俺たちは小さくまとめた荷物を持って玄関を出た。

サッと静かに、だがたくさんの布の擦れる音がした。

目の前には、エンバルトリアの生き残りの部下たちが玄関から門までの道に左右に分かれて並んでいた。突然のことに驚いていると、一番先頭に立っていたユリスが小声で号令を取り皆が一斉に俺たちに向かって敬礼をした。
ユリスは静かに涙を流していた。

「ジル隊長。お元気で」
「ユリス……」
「落ち着いたら必ず連絡をください。きっとですよ」
「ああ……ああ。必ず」

胸と喉の奥が痛くなった。
漏れ出しそうな嗚咽を飲み込み何とか返事ができた。

部下たちを見渡すと皆涙目で、自分だけ逃げようとする俺に対して暖かく送り出そうとしてくれているのを感じた。

ずっと1人で居ると思っていた。
けれど実際はこんなにも暖かい人たちに囲まれていた。

「ジル様の人徳ですね。分かる人にはちゃんと伝わっているんですよ」

エドガーが優しい顔でそう言った。
今日ここを発つことをこいつらに伝えたのはエドガーしかいない。
国を出る最後に、挨拶しておきたい人たちに別れの言葉を言えるのは素直に嬉しかった。

「ユリス……みんなも。ありがとう。みんなと会えて本当に良かった。逃げる俺を許してくれ」
「許すもなにもジル隊長が人並みの幸せを手に入れるチャンスなんですから、僕たちはもちろん応援しますよ」
「俺は、みんなと戦っている間も幸せだったよ。みんなが俺を信じてくれてたから」
「勿体ないお言葉です」

ユリスは嬉しそうに笑ってくれた。

「さ、もう時間がありません」
「ああ」

俺たちは用意しておいた軍馬に乗って母国を発った。

山を越え、時には海を渡り、果てしなく感じるほどの距離が離れた場所の広い草原で、やっと荷を下ろした。
人里が周りにある気配もない。
けれど近くには川も流れ、少し行くと海もあり、森もあり、ここに簡単な家を建てたら住みやすそうで俺たちはここに住むことに決めた。

2人がかりで数日かけて簡単に木や土を使って雨や風を凌げるような家を建てた。

「我ながら見れる家が建てられた」
「そうだな」

建った家を眺め、そんなことを言いながら、家の前の野原に寝転がった。
草の匂いや、流れる風が気持ちよく、疲労感もあってすぐに心地よく眠れそうだ。
そして本当に眠ってしまっていたようで、目を覚ますと少しだけ陽が傾いていた。
横ではエドガーも静かに眠っていて、俺よりもいくつか年上のこの人は俺より疲れたのだろうなと思いながら眺めていると、下半身がやけにもっこりとしていることに気がついた。

起きているのかもと顔を見ても、エドガーは規則正しい寝息を立てていてしっかり眠っていることがわかる。

人間、疲れていると生存本能か何かで勃つと聞いたことがあるけど、これはそれなのかもしれない。
エドガーの股間の膨らみを見ながらやけに冷静にそんなことを考えた。
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