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25 マスクも眼鏡
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傷もだいぶ癒えて、普通の速度で歩くのも苦じゃなくなった頃から、俺は庭ばかりではなく街を散策し始めた。
先の戦争の勝利で街も潤い、活気づいていて、大通りからそれた道に入ると俺が子供の頃と比べ立ち並ぶ店も変わっているところが多かった。
毎回何か歩きながら食べられるようなものを買って食べていて、今回は野菜を串に刺してごま油と塩で味付けされたものを買ってルノーに渡した。
ルノーは毎回手渡す食べ物を嬉しそうに受け取って食べるのだが、冷やし野菜は受け取るのにほんの一瞬だけ躊躇したのが分かった。
「あれ、野菜嫌いなのか?」
「……いえ、その、得意ではありませんが、ジル隊長にいただけるものは何でも嬉しいです。ありがとうございます」
そう言って受け取った冷やし野菜を食べ始めた。
「その隊長っていうの、やめてくれないか? もう俺は隊長じゃないし」
「分かりました。では、ジル様でよろしいですか」
「いや、それもちょっと。俺は様付けされる程の人間じゃないし」
「では何とお呼びすればよろしいでしょうか」
「まぁ、普通にジルでいいけど」
「俺は護衛兼世話係です。つまり使用人なのですから、主人を呼び捨てには出来ません。なので、ジルさんでよろしいでしょうか」
「なんかそれもムズムズするけど、まぁ、それで妥協しよう」
そう言った俺に、ルノーはニッコリと笑ってお礼を言った。
最近は一緒に食事をするし、こうやって食べ歩きもするようになったので、ルノーは口元を隠すマスクを使用しなくなった。
マスクを着けなくなった最初の頃は、ルノーの顔を見て落ち着かなかったけどそれも毎日続けば嫌でも慣れてしまった。
それどころか、顔は同じに見えてもルノーはエドガーじゃないとはっきり認識できるようになっていた。
「ルノー、マスクを外した顔にも慣れて来たし、そのメガネもそろそろ取って良いぞ。不便な思いをさせてしまって悪かった」
「え……?」
ルノーは俺の言葉に困惑した声で答えた。
「聞いているとは思うが、ルノーのことがずっと俺が好きだった人に見える」
「はい」
「だけど、俺はその人を諦めるとエンバルトリアへ向かう前に決めたんだ」
ルノーは唇をひき結んで黙っていた。
「エンバルトリアへ向かう前に、その人の恋人に言われたんだ。自分なら好きな人に看取らせる生き方はしないと。確かに俺は、そんな生き方は出来ないし、その人を幸せにすることなんて出来ないと諦めてエンバルトリアへ行った」
黙って聞く姿勢のルノーを連れて屋敷への道を歩きながら話した。
「戦果を上げて帰ってくると豪語していたものの、俺は別に死んでもいいと思っていたんだ。なぜだと思う?」
「……好きだった人に傷つけられていたから、でしょう?」
「違う。」
悲痛な声で答えたルノーの答えを否定すると、ルノーが横で息を飲むのが分かった。
「信じてもらえないとは思うが、俺は、どういう原理でそうなったのかは俺にも分からないけど、こことは違う世界線から来たんだ。元の世界では俺はその人の恋人だった。そして元の世界では俺もその人ももう死んでるんだ。だから、死ねばその人に会えると思っていた」
「そんな」
ルノーは俺の話に驚いた声は出したものの、疑っているようでもなくただ声が漏れてしまったと言う感じだった。
「でも、ルノーといるのは楽しくて、死に急ぐのは早いかもなって気がつけたんだ。ありがとう」
「っ、俺は何も」
「いや、俺が前向きに考えらるようになったのもルノーのおかげだ。だから、メガネもマスクももう必要ない。この世界のその人にも、知らぬ間に違う世界の自分と重ねて見てしまって申し訳ないことをしたと今では思っているんだ」
「その人のことを、もう好きではないと言うことですか」
「まぁ、そうなのかもな。この世界のその人にはもう大事な人がいるからな。ほら、メガネ外せよ」
笑ってそう告げ、ルノーのメガネを取ってやると、ルノーは悲痛な表情をしていた。
「何で悲しそうなんだ?」
「ぁ……いえ……いえ。何でもありません。では、今日からはメガネも外します」
気を取り直したように、そう言った。
先の戦争の勝利で街も潤い、活気づいていて、大通りからそれた道に入ると俺が子供の頃と比べ立ち並ぶ店も変わっているところが多かった。
毎回何か歩きながら食べられるようなものを買って食べていて、今回は野菜を串に刺してごま油と塩で味付けされたものを買ってルノーに渡した。
ルノーは毎回手渡す食べ物を嬉しそうに受け取って食べるのだが、冷やし野菜は受け取るのにほんの一瞬だけ躊躇したのが分かった。
「あれ、野菜嫌いなのか?」
「……いえ、その、得意ではありませんが、ジル隊長にいただけるものは何でも嬉しいです。ありがとうございます」
そう言って受け取った冷やし野菜を食べ始めた。
「その隊長っていうの、やめてくれないか? もう俺は隊長じゃないし」
「分かりました。では、ジル様でよろしいですか」
「いや、それもちょっと。俺は様付けされる程の人間じゃないし」
「では何とお呼びすればよろしいでしょうか」
「まぁ、普通にジルでいいけど」
「俺は護衛兼世話係です。つまり使用人なのですから、主人を呼び捨てには出来ません。なので、ジルさんでよろしいでしょうか」
「なんかそれもムズムズするけど、まぁ、それで妥協しよう」
そう言った俺に、ルノーはニッコリと笑ってお礼を言った。
最近は一緒に食事をするし、こうやって食べ歩きもするようになったので、ルノーは口元を隠すマスクを使用しなくなった。
マスクを着けなくなった最初の頃は、ルノーの顔を見て落ち着かなかったけどそれも毎日続けば嫌でも慣れてしまった。
それどころか、顔は同じに見えてもルノーはエドガーじゃないとはっきり認識できるようになっていた。
「ルノー、マスクを外した顔にも慣れて来たし、そのメガネもそろそろ取って良いぞ。不便な思いをさせてしまって悪かった」
「え……?」
ルノーは俺の言葉に困惑した声で答えた。
「聞いているとは思うが、ルノーのことがずっと俺が好きだった人に見える」
「はい」
「だけど、俺はその人を諦めるとエンバルトリアへ向かう前に決めたんだ」
ルノーは唇をひき結んで黙っていた。
「エンバルトリアへ向かう前に、その人の恋人に言われたんだ。自分なら好きな人に看取らせる生き方はしないと。確かに俺は、そんな生き方は出来ないし、その人を幸せにすることなんて出来ないと諦めてエンバルトリアへ行った」
黙って聞く姿勢のルノーを連れて屋敷への道を歩きながら話した。
「戦果を上げて帰ってくると豪語していたものの、俺は別に死んでもいいと思っていたんだ。なぜだと思う?」
「……好きだった人に傷つけられていたから、でしょう?」
「違う。」
悲痛な声で答えたルノーの答えを否定すると、ルノーが横で息を飲むのが分かった。
「信じてもらえないとは思うが、俺は、どういう原理でそうなったのかは俺にも分からないけど、こことは違う世界線から来たんだ。元の世界では俺はその人の恋人だった。そして元の世界では俺もその人ももう死んでるんだ。だから、死ねばその人に会えると思っていた」
「そんな」
ルノーは俺の話に驚いた声は出したものの、疑っているようでもなくただ声が漏れてしまったと言う感じだった。
「でも、ルノーといるのは楽しくて、死に急ぐのは早いかもなって気がつけたんだ。ありがとう」
「っ、俺は何も」
「いや、俺が前向きに考えらるようになったのもルノーのおかげだ。だから、メガネもマスクももう必要ない。この世界のその人にも、知らぬ間に違う世界の自分と重ねて見てしまって申し訳ないことをしたと今では思っているんだ」
「その人のことを、もう好きではないと言うことですか」
「まぁ、そうなのかもな。この世界のその人にはもう大事な人がいるからな。ほら、メガネ外せよ」
笑ってそう告げ、ルノーのメガネを取ってやると、ルノーは悲痛な表情をしていた。
「何で悲しそうなんだ?」
「ぁ……いえ……いえ。何でもありません。では、今日からはメガネも外します」
気を取り直したように、そう言った。
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