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22 護衛兼世話係

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褒賞を与えられるその間も、ドアの外で控えていたルノーに声をかけた。

「隊は解散だ。お前も何か与えられるだろう。ここまで世話を買って出てくれてありがとうな」

暗に世話はもういいと伝えてもルノーは何も言わない。
ルノーの肩に手を置いてポンポンと叩いてから「それじゃあな」と歩き出すとルノーはやっと動いた。

「おい、何のつもりだ?」

動いたと思ったルノーはその場に膝をついて頭を下げた。

「褒賞をいただけると」
「ああ。ルノーたちは何を貰えるのかは追って通達がくるんじゃないか?」
「いただきたいものがあります」
「それは軍の上層部に言ってくれ」
「隊長にしか出来ないことです」

俺にしか出来ないこととは何だろうか。
考えを巡らせてみるが、俺にしか出来ないことなどは無さそうに思える。

「俺の我がままであることは分かっています。ですが、俺の願いを聞いていただけませんか」

そこまで懇願されると俺も何も聞く前から断るというのも気が引けてくる。
それにここまでのルノーの働きぶりを見れば、何か国から出る褒賞とは別に俺が渡せるものなら与えてやりたくもなる。

「とりあえず何がほしいのかを教えてくれ。何も分からないとさすがに怖い」
「ありがとうございます。ただ、物体ではないんです。俺がほしいのは、あなたの護衛兼、世話係継続の権利です」

「俺の護衛兼世話係継続の権利?」
「はい。これからもジル隊長の身の回りの世話をすることを許していただきたいんです。もちろん、俺がやりたくてやることですからそれによる賃金は必要ありません」
「いや、俺の世話なんて別に必要ないし、護衛が必要な程命を狙われているわけでもない」
「はい。隊長が必要ないと思っておいででも、俺が護衛兼世話係をする権利をいただきたいのです」


色付きメガネに光が反射して、ルノーがどういう表情をしているのかは判別がつかなかった。
だが、冗談を言っているわけではないことは流石にわかる。

「それはルノーにとって何の得にもならないだろう? ましてや賃金まで要らないとまで言われればその裏にあるものを勘ぐりたくなる」
「裏……。そうですね。俺が隊長の側に居たいと思う理由は多くありますが、それは今は伝えることができません。もしかしたら、一生言えないままかもしれない。ですが、俺はもう二度と取り返しのつかない失敗をしたくないんです」
「取り返しのつかない失敗?」
「はい。聞いていただけますか」
「ああ」

答えるとルノーは緊張を緩和させようとするかのように大きく息をつき、静かに話し始めた。

「俺は……以前大切な人がいたんです。でも大切で愛していた自分の心に気がつかないフリをして心に蓋をして、その人を遠ざけて冷たく当たって傷つけて、そしてそうすることが当然なんだと思っていました。俺の勝手な勘違いで、その人を俺の復讐相手だと思い込んでいたから…………でもそんな俺に対してその人は何度も俺に好きだと伝えてくれていました」

何だか他人事には思えない話だ。
話し方は丁寧で、エドガーとは全然違うのに、声や仕草はエドガーだしやってることまでルノーはエドガーとそっくりだ。
だが、エドガーとルノーで違うのは、ルノーが相手を愛していたのに冷たく当たったと後悔している点だろうか。

この世界のエドガーは俺を愛しはしないから、エドガーは何の後悔もしていないだろう。
今頃は訓練校が終わる時間なのでニコルと甘いひとときを過ごしているのかもしれない。

そう思えば、同じような状況でも確実に愛されていたルノーの相手が羨ましく思ってしまった。

「それで、好きだと伝えてくれていた彼を傷つけたことが、俺の世話係をすることにどう繋がるんだ?」

この話になった根本の部分を尋ねると、ルノーはぐっと押し黙った。

「今は……、今は、その人に会えない状況で、自分の以前の態度を謝ることもできません。今のところ、会える見込みもあるかどうか分からない状況で……、万が一会えたときに、誠心誠意謝ることが出来るように隊長のもとで修行をさせていただきたいんです」
「俺のところにいても、そんなことの修行にはならないだろう」
「いえ。隊長のお側に居ることが、今の俺にできるたった一つの手立てなんです。出ていけと言われたらすぐに出ていきますので、お試しと思って置いてみていただけませんか」

そう言って頭を下げたルノーにダメだと言うことはできなかった。
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