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21 凱旋

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世話をしてくれている兵を変えてほしいと頼むと、ユリスは困った顔をした。
それからしばらくして、俺は精神科医に診察されることになり、俺を助けて世話をしてくれている兵が、じつは好きな人に見えているのだと告白した。
隣で聞いていたユリスは俺を困惑した表情で見ていたが、それも当然だろう。
人間の顔を間違って認識してしまう病気なんてあるのだろうか。
俺にはそういう知識はまるでないから分からないが、とりあえずこれで世話係は変えてもらえるだろうと思っていたのに、例の兵は俺の前にマスクと色付きのサングラスを身につけて現れた。

「顔は隠します。どうか側であなたの手伝いをさせてもらえないでしょうか」

頭を下げ、昨日までと打って変わって敬語で頼む彼の声も、やはり教官の声に聞こえるのだが、顔が見えないからか幾分か落ち着くことができた。

「他にしなければならない仕事もあるだろう。君は他の兵よりも体格が良いし、俺の世話をするよりも有意義な仕事があるはずだ」
「いいえ」

俺の言った言葉を即座に否定したその兵は続けた。

「お願いです。隊長の側で手足になりたい。元気になるまでの間で良いですから、護衛も兼ねて側に置いていただけませんか」

彼の顔や声は、教官と同じに感じてしまうけれど、そう感じているのは俺だけで実際のところは俺の部下なのだ。
誰かの命に関わることでもない。誰かの迷惑になることでもない。
部下がここまで頼むのなら、俺は願いを聞き入れるべきなのだ。
かつて俺が愛したエドガー隊長なら部下の願いを無下にしたりはしないはずだ。

「……分かった」
「っ!! ありがとうございます!」

声音だけでも嬉しそうなのが伝わって来て、そこまで俺を慕ってくれている部下がいただろうかと思い出そうとした。
けれど、そのような部下がいた覚えはない。

そこまで考えて、俺はまだ彼の名前も知らなかったことに気がついた。
最近まで教官だと思い込んでいたから、名前を聞くなんて考えもなかった。

「お前の名前はなんだ?」

俺がそう質問すると、彼は一瞬言葉に詰まったように沈黙してから答えた。

「エ……ルノーです」

「エルノー? 変わった名前だ。外国の血が流れてたりするのか?」

俺がそう質問すると、ちょうどお茶を運んできてくれていたユリスが肩を揺らした。

「何だ、ユリス。何笑ってんだ」
「い、いえっ。ふふ。彼の名はルノーだと思いますよ」
「ああ。そうなのか。間違えて申し訳ない。ルノー、俺を連れ帰ってくれた上に世話まで買って出てくれてありがとうな」
「いえ」

ルノーはよく働いて、俺の世話をしてくれた。
傷口のガーゼも毎日変えてくれて、全身暖かいお湯を絞ったタオルで優しく拭いてくれ、俺の体は清潔に保たれた。
額に乗せたタオルの入れ替えも良いタイミングで行ってくれ、一度瀕死状態になっていたとは思えないほどの快適さだ。
起き上がれる時間が増えてからは、車椅子に乗せられて散歩に連れ出され程よく日光浴もできた。

そんな生活が続いたある日、俺の回復を待たず、敵国が降伏したことでエンバルトリア遠征部隊は国へと帰ることになった。

長い道中もルノーのおかげで苦も少なく、むしろエンバルトリアへ来る時よりも快適だったと言っても過言ではない程の介抱だった。

国の入り口に着くと、凱旋した俺たちをお祝いする民衆が道の脇に並んでいた。
神輿のようなものに乗せられて、あちこちから俺の名を呼び称えてくる声を聞きながら進む道は気まずくてならなかった。

そもそも死者も大勢出た戦いだった。
その責任は隊長である俺にある。
このように祝福されて称えられるような人間ではないのだ。

俺の乗る神輿の横を歩くルノーの色付きのメガネの下の瞳を盗み見ると、うんざりだという感情が浮かんでいるように見えた。

ルノーは騒がしいのが好きじゃないのかもしれない。

軍の上層部にも顔を出すと、彼らは戦勝したことによって掌を返したように俺を褒めそやかし、俺へ療養のための屋敷と多額の金を褒賞として与えた。

街をぶらつけば知り合いに会ってしまうかもしれないと思うと気が進まず、そもそも一人で動き回れるほど体も回復していないので与えられた屋敷に篭ることにした。

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