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20 ユリス視点

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隊長に命令されたように、僕が急ぎ戻って自軍に撤退の指示を伝えることが、仲間のため、国のためになる。

ジル隊長は瀕死の傷を負った時、僕に隊長を見捨てることを命令した。
ジルは負傷した僕を見捨てなかったのに、僕がジルを見捨てないことは許さなかった。

足を引きずりながら仲間に撤退を伝えて歩き、テントに戻ってからは負傷兵を近くの街へ移送した。

ーーこれから戻っても隊長はもう……

恩のある人なのに、僕はジルのために何をすることも出来なかったんだ。
自分の弱さに嫌気がさし、結果的に見捨てることになってしまったことを後悔しながらも、急いで野営テントに戻ると、ジル隊長はエドガー教官から看病されていた。

僕たちが撤退するのと入れ違い、駆けつけてくれていた教官に助けられ、なんとか一命を取り留めたらしく静かに息をするジルを見て僕は嬉しくて涙が止まらなかった。

それに、ジルに対して少し冷たかった教官が、あんなに愛しいものを見る目でジルを見ていることに安心した。
ジルが教官を好きなことは、周知の事実だからだ。

だけれど、しばらくして体は元気になり始めたジルの様子がおかしいことに気がついた。
教官に向ける視線もよそよそしく、戸惑っているような反応をしはじめたのだ。

「ユリス、みんな忙しくて申し訳ないんだけど、俺を看病してくれている兵を、変えてもらうことはできないか?」

そんなことまで言い始めた。

「看病してくれている兵って、エドガー教官以外に誰かいましたっけ?」
「教官? いや、教官の話は今していないんだけど」
「いや、だから隊長を看病してくれているのはエドガー教官ですよね?」
「いや、俺の近くでおかゆとか作ってくれたりしてる兵のことなんだけど」

こんな調子で話が通じず、けれど教官が看病するのは頑なに嫌がるので戦場精神科医に診てもらうことになった。
遥々遠くから往診に来てもらい、ジルを診てもらうとジルは少しずつ話した。

この戦に来る前に、ずっと好きだった人がいたこと。
今、看病をしてくれている兵がその好きな人の姿に見えること。
だがその人は自分のことを嫌っている上に今は恋人がいて、こんな場所にいるはずのないことは理解していること。
それは、一度死にかけた自分の妄想が幻を見せているのだと思うこと。

そんなことを淡々と話す様は、逆にひどく痛々しく見えた。

医者は、ジルがそう思い込んでいるなら、無理に正そうとしない方がいいと言った。
だから医者と一緒にエドガー教官にそのことを伝えた。

ショックを受けたような顔をした教官は、ただ静かにうなずいた。

「だが、俺は別人として看病を続けてもいいだろうか」
「患者の負担にならなければ。患者に聞いてみて嫌だと言ったら他の者に変わった方が良いでしょう。それが、彼の為になる」
「……わかりました。ありがとうございます」

うなだれて返事をした教官を見て、胸に憎悪の感情が湧き上がる。
ジルを精神的に追い詰めたのはこの人なのだ。
ずっと孤独に戦ってきたジルを僕は助けることはできなかった。

だが、実際に瀕死の状態のジルを助けてくれたのも間違いなくこの人で。

ジルを追い詰めたのはこの人なのに、結局ジルを助けられるのはこの人だけなのだろうと思うとひどくやるせない気持ちになった。

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