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17-1 エドガー

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『エドガー教官、好きです』

何度も言われた言葉が、頭の中をこだまする。

黒髪赤目のあいつの見た目は、その色でさえなければ、俺の好みど真ん中の顔だった。
だが、黒髪赤目は俺の妹を殺した犯人と同じだ。
この国ではその色を持つものは少なく、髪も目も一致するので確認できているのはジルだけだった。

そんなジルが、1年遅れで訓練校に入学すると聞いて、俺は真っ先に失敗したなと思った。
妹を殺害した犯人を探すのに時間を使ってしまい、本当は去年の新入生のクラスを受け持つはずだったのが、1年遅れて今年の新入生を受け持つことになってしまっていたからだ。

それでもジルというのは平民らしいので安心していた。
だが、学年主席合格らしいジルは平民がいるはずのない俺の担当の士官クラスに割り振られていた。

まだ、ジルがやったと決まったわけではない。
だが、黒髪赤目が他にいない事も確かなのだ。

それでも教子になってしまったからには、分け隔てなく接することが俺の務めだ。
そう思っても簡単には割り切れず、冷たく当たってしまうことも多かった。

ジルは何事にも真面目に一生懸命に取り組んで、それを成績という結果につなげていた。
人一倍、陰でも努力をする姿を見ていつも心がざわついていた。

ジルを信じたい。
こいつがそんなことをするわけがない。

何度もそう思おうとした。

だが、そんな時サバイバル訓練の最中に訓練兵が戻ってこないという事件が発生した。
訓練兵を捜索中、ジルが用を足すと言って俺の前から離れてしばらくしてから、同僚と負傷した訓練兵が来た。

「おう、エドガー。お疲れ」
「ああ……そっちの訓練兵は怪我をしてるな」
「そうなんだ。いきなり襲われたんだよ。木の上からいきなり飛び降りて俺が頭を殴られてうずくまってる隙に、この子もやられちゃってさ。顔は見えなかったんだけど、黒髪だった。お前も気を付けろよ」
「黒髪……?」
「ああ。そーいや、新入生の中に一人いたよな。そいつはどこに行ったか知ってるか?」
「俺と行動してる。今は用を足しに」
「そうか。なら、安心だな。まぁ、さすがに新入生にやられたってなったら恥だから良かったわ」

同僚は頭を殴られたという割には朗らかに笑いながら去っていった。
だが、俺の心は殺伐としていた。

同僚は黒髪がこの国にどれくらい少ないのかを知らないから笑っていられるんだ。

その後、疲れた様子で帰ってきたジルを見て確信した。

用を足しに行っていただけでここまで疲れるはずなどない。
黒髪の男を見つけたというジルの言い分を跳ね除け、言い合いになって、押し問答の末、結局捜索は2人で続けることになった。

底の深い川も、一歩踏み外せば真っ逆さまに落ちるような崖も、ジルは不満も言わず懸命に捜索した。

結局訓練兵は全員生きて見つかったが、その中の一人も男の顔を確認したものはいなかった。

船に乗り、訓練基地へ向けて出航した後、俺はジルを探した。

もしかしたら船の中でも他の訓練兵を襲うかもしれない。次の悪巧みをしているかもしれない。
誰が聞くわけでもないのに自分の心にそう言い訳して、ジルを探したがなかなか見つからなかった。

残すところは甲板付近のみ。
扉を開けて出てみると冷たい風が吹き荒れ、打ち付ける波で床は濡れていた。

ジルはそこにいた。

腹を抑え蹲り、近づくと脂汗をかいていることが分かった。
俺が近づいても、見上げることすらせずただジッとしているジルのただ事ではない様子に俺は焦った。

「どうした」

片膝をついてジルと目線を合わすと、ジルは少し目を見開いた。

「……んでも、あり……せん」

なんでもありません。そう、言いたかったんだろう言葉は、耳をよく凝らしていても聞き逃してしまいそうなほど小さく、頼りなかった。

「熱があるのか。同行している保険医に診せろ」

そう言ってもジルはわずかに首を横に振った。

「いえ……少し……休んでいれば大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます」

とてもじゃないが、少し休んでいればどうにかなりそうな具合には見えなかった。

「無理に動かすのは良くないかもしれないが、自分で診せる気がないのならこうするしかないな」

横抱きにして抱え上げても抵抗する力もないらしい。
降ろしてください、自分で歩けますからと口では言ってもモゾモゾと動くくらいしかしなかった。

腹かどこかを負傷しているのが、抱え上げて運ぶことで負担になってしまったのかジルは医務室に着く前に眠ってしまった。

その後、保険医に聞かされた内容は信じられないものだった。

捜索が始まったあたりの日から、ジルはずっと腹に傷を抱えていた。

どこで、誰に負わされた傷なのかは分からないが、ジルはその傷を捜索を続けるために自分で焼いた。

頭ごなしにジルを疑うだけ疑ったあの日のジルの悲しそうな顔が頭をよぎって、俺は医務室にいるのが耐えられなり逃げるようにその場を後にした。

次の日、意を決して医務室に向かうとジルがベットは自分はもう不要だからと断り出ていったと言われ焦った。あんなに辛そうな傷が一晩寝ただけでどうにかなるとは思えない。

ジルの姿を探すと、案の定甲板にいた。

医務室に戻れと言っても、ベットは他の必要な人に使うべきだと頑なに拒否するジルを無理やり自分の部屋に連れて帰り、ベットに入れて一緒に眠りについた。

逃げようとするジルを抱きしめて止めれば、逆にモゾモゾとくっついてくるジルを愛おしく思いそうになって、心の中で慌てて否定した。

だが、結局だめだだめだと思っても、ジルを好きだと思う気持ちは止められず募っていくばかりで、黒髪の男を憎く思う気持ちとの間で揺れた。

だから、ニコルの腕を痣になるまで掴んだと騒ぎになった時、憤った。

ジルを好きになりかけていた心は、結局ジルを信じきることのできない俺の弱い心に否定され心の隅に追いやられた。

ニコルに告白され、不誠実だと思いながらもジルへの気持ちを封印するために、ニコルと付き合い始めた。
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