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毎日毎日、忙しく体はボロボロになっていく。
週に1度来る補給では味気ない食事ばかりで何も楽しみもなく皆、疲弊していくばかりだ。
たまに、どうしようもなく寂しくなった時は、持参したウィスキーを少しだけ呑んだ。
ここに来る前の晩に、居酒屋で教官が呑んでいた銘柄のウィスキーだ。

あと5年もすれば、この近くにも飲み屋の屋台が来てくれて、隊長はよくそこに連れて行ってくれたな。

そんな、遠い遠い昔の思い出を肴に飲む酒は、少しだけ心を穏やかにした。

誰1人死なせないようにと願っても、毎日人が死んでいく。
さっきまで話していた奴が、次の瞬間には肉塊になる。
毎日が、生きるか死ぬかのギリギリの状態だった。

ある日、補給係の部下が写真を持ってきた。

「ジル隊長、ほら向こうの人たちの写真ですよ!」
「俺はいい。みんなで見てくれ」
「まぁ、まぁ、そう言わず。訓練校のもあるんです。同学年の子たちは在学中でしょう? 知り合いがいるかも」

明るく語りかけるそいつに、仕方なく折れて写真を手にした。
訓練校の生徒の中に、俺と仲良くしてくれてた人間なんていない。
だからそんな写真を見せられても、なんの癒しにもならないはずだった。

だが、授業風景や、日常の様子を乱雑に写した写真の中にそれはあった。
訓練生が模擬剣を振るう後ろで怒声を飛ばしているらしい教官が小さく写っている。

「ぁ……、この。この写真は貰ってもいいのか」
「え? ええ。気にいったのがありましたか? って、なんで泣いてるんですか!?」
「いや……、ちゃんと、元気にやってんだなぁって……。安心しただけだ」
「え? そんなに心配するほど仲が良かったんですか? この訓練生ですか? もっと他に写ってるかも」
「いや、これだけでいい。ありがとうな」

模擬剣を握っている訓練生だと勘違いして、他の写真も探し始めようとした補給係を止めて、俺はその写真を大切に懐にしまった。

教官はちゃんと生きている。
危険な任務に当たっているわけではない教官が、生きているのは当たり前だが、それでも人間突然何かが起こらないとも限らないんだ。
でも、教官はちゃんと生きている。

安心して、嬉しくて、懐かしくて、愛おしくて、会いたくて、ただ涙が溢れた。

街の人たちの写真もあって、その日の夜は皆んな写真を楽しく見て穏やかな顔をしていた。

だが突然、戦況は変わった。
その日の夜中に偵察隊が戻ってきて敵軍がこちらに向かっていることを知らせてきた。
ざっと確認しただけで、俺たちの倍の人数はいるらしい。

俺はみんなを集めた。

「ここまで皆んな良くやってくれた。だが、これから来る敵軍に俺たちが立ち向かえば無事では済まないだろう。撤退するのも勇気だ! 今日、ここでこの部隊を離れることを許可する。俺が、しんがりを務める!」

逃げてほしいと思った。
国が戦争に負けることよりも、自分の命を優先して欲しい。
部隊の隊長として、無責任にも思えるようなことを願った。

その代わり、俺はここから逃げない。
最後まで、たとえ一人でも敵軍の侵出を防いで、部下が逃げるためのしんがりを勤め上げて見せる。

「さあ、行け!」

声を張り上げても、誰も動かなかった。

「ジル隊長。僕は最後まであなたと共に戦います」
「ユリス……」

ユリスは敬礼をして俺を見た。
他の奴らも皆真剣な顔をして、俺に敬礼をしてきた。

「皆んな、俺についてきてくれるのか」

ボソリと呟けば皆んな真剣な顔でうなずいてくれた。

「数では勝ち目がない。少ししか時間はないが、作戦を練ろう」

そうして、俺たちは最後の悪あがきの作戦を練り始めた。
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