パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている

いちみやりょう

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14 最後の挨拶

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3日後には出発しなければいけないという、あまりにも早い出立で俺に別れの挨拶をしなければいけない相手が居るとしたら、大変なことだったろう。
生憎俺には最後に会っておきたい人物は2人しかおらず、3日もあれば充分だった。
そのうち1人は、義弟のマルセルで先ほど別れを済ませてきたし、別れの挨拶は今から会いに行く相手のみだ。

目的の相手の部屋のドアの前に立ち、ノックをするとすぐに扉は開き、俺を確認した相手は嫌そうな顔をした。

「ジル……。何の用?」
「冷たいな、ニコル。俺はただお前に最後の挨拶に来ただけだ。入れてくれるだろ?」
「最後の?」

ニコルは訝しげにしながら俺を部屋の中に入れてくれた。

「で、最後の挨拶って何?」
「ああ。まずは、この前言いそびれていたから言っておく。おめでとう」
「は?」
「教官と付き合いはじめたんだろ……確かに、ニコルが言うように俺には教官に看取らせない生き方は選べないから。それが出来るお前の方が、教官は幸せなんだろうな」
「お前、どうしたんだよ」

ニコルは困惑したような顔で俺を見た。
俺は居住まいを正してニコルに向き直り、頭を下げた。

「こんなこと、俺に頼まれてもうざいと思うだけかもしれないけど、隊長を頼む」
「っ、なんのつもり」
「隊長に任命された。エンバルトリアへ向かう部隊の隊長だ」

ニコルの顔色は一気に青くなった。

「そんな……。僕はそこまでの話になるとは……僕は、ただ、僕は」
「ニコル、落ち着け。俺は簡単には死なない」
「あの時、ジルは簡単に死んだじゃないか」
「それは、お前みたいな足手まといが居たからだ。お前みたいに人を殺すことを躊躇する人間は軍には向いてない。さっさと辞めてしまえ」
「そんな」
「そして、教官を支えてやってくれ。もちろん俺は死にに行くつもりはない。戦果を上げて帰ってくる。だが、それには何年かかるか分からない。俺が教官にアピールしている横からかっさらった責任を取って、ちゃんと2人で幸せになってくれよ」
「ジル……」

ニコルの部屋を出て、自室に戻り荷物をまとめた。
荷物と言っても下着や軍服くらいしか詰めるものもなく、すぐに終わって、ベットに身を投げ出した。

明日には戦地へ向けてここを発つ。

教官を最後に一目くらい見ておこうか。
遠くからでもいい。一目だけでも。
もう次に見られるのは何年先になるか分からないのだから。

そう思い立って部屋を出た。
朝は走りに出ているのを知っているが、夜はどこで何をしているのか俺は知らない。
前の世界と同じなら、近くの飲み屋に居るだろうか。

暗い道を歩いて飲み屋に向かうと、飲み屋街が明るくて賑やかで明るい気持ちになってくる。
前の世界の時の教官がよく使っていた飲み屋をこっそりと覗くと、そこに居た。

一人で渋い顔をしてチビチビとウィスキーを飲む姿は、俺の好きな教官そのものだ。

俺はバレないように後方の席に座り、教官と同じものを注文した。
すぐに届いて、一口飲む。
辛い口当たりが妙に心地いい。
今この瞬間俺は、教官と同じ空間に居て、教官と同じものを飲んでいる。
なんだかストーカーじみた行いも今日だけは許される気がした。
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