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12 ニコル の思惑
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ーーあいつ、手に痣できてるよ
ーーやっぱあいつ危険だろ
ーーあのジルに構ったりするから
集まった奴らは口々に好きなことを言っている。
「ニコル、悪い。痣に当たっちまったか?」
「あ、痣は君が作ったんじゃないか。僕もエドガー教官のことが好きって……そう言っただけなのに」
「え?」
ニコルが教官のことが好き?
そんな話は一回も聞いたことがなくて、まさに寝耳に水の状態だった。
「お前ら何をやってる! 散れ」
エドガー教官が騒ぎを聞きつけて食堂にやってきて、俺たちの周りに集まっていた生徒を解散させた。
「教官っ。僕、腕を掴まれて……、怖かったんです」
「見せてみろ」
教官はニコルの腕を確認してから俺を見た。
「ジル。手を出せ」
「はい」
大人しく手を出すと、ニコルの腕の痣と重ねられる。
「ぴったり同じだな。まぁ、手の大きさなんてそんなに変わるもんじゃないだろうが、目撃者も多い」
「そんな……俺、そんな強くつかんでなんか」
「言い訳はよせ。とりあえず、お前は自室に戻って沙汰を待て」
「教官……」
「ニコル、大丈夫か?」
教官は俺を無視してニコルを心配そうに見た。
ニコルは俺を見てニヤリと笑った。
訳がわからない。
俺はニコルに恨まれるようなことをしたのだろうか。
いや、ニコルも本当に教官が好きだったから、邪魔な俺を排除した?
だけど、俺は教官に嫌われてるのだから、わざわざそんなことしなくても良いのに。
自室に戻っていると、トントンとノックをされた。
沙汰が出るにしては早いよなと思いながら返事をしてドアを開けると、そこにはニコルが立っていた。
「ニコル……。お前、よくここに来れたな」
「そんな怖い顔しないでよ。とりあえず中に入れて? 大事な報告に来たんだ」
「大事な報告?」
こんなところで立ち話をしているところを誰かに見られても困るので、半身をずらして、ニコルを招き入れた。
ニコルはまるで自分の部屋のように、俺のベットにドカリと腰掛けて俺を見てほくそ笑んだ。
「僕、エドガー教官と付き合うことになったんだ、その報告。だからもうちょっかい出さないでね」
「付き合う……?」
「そ。やっとここまで来れたよ。前の世界の時は、教官もジルも僕なんて全く眼中にも無かったんだから」
「前の世界だって……?」
「ジルもきっと僕と同じ世界線に居たんだろ? 僕の方が数年先にこの世界に来たようだけど」
「なん、で?」
「ここがパラレルワールドだって気がついてるんでしょう? だってパラレルワールドについて僕が教えてあげたんだもんね。僕はパラレルワールドについて研究したんだ。本当は僕だけがここに来るはずだったんだけど、何かの拍子に君も来ちゃったみたいでね」
「なんでこんなことするんだ」
「教官が好きだからだよ。あの世界で教官は君にベタ惚れだった。あの戦いの時、負傷した僕が死ぬはずだったのを、教官が庇ってくれて、僕はすごく嬉しかった。なのに、そのすぐ後に君が教官を庇って死んだ」
パラレルワールドについて教えてくれたのは確かにニコルだった。
俺が死ぬ時、教官が庇ったのもニコルだ。
「君が死んだ後の教官はどんどん弱って行ったよ。寂しそうで、辛そうで、数年後に君の後を追うようにして亡くなった」
「そんな」
「だからね、この世界で僕は、君が教官から嫌われるように仕向けた。色々やっちゃいけないこともやった。そしてまんまと君は嫌われて、僕は晴れて教官の恋人になれた」
「……教官の妹を殺したのもお前なのか」
「ふ、ふは。それは僕じゃない。あの子は病気だったんだよ。前の世界でもそうだったろ。前の世界でだってあの子は僕たちに会うより前に死んでいた。僕は病気で死んだあの子を、黒髪の男が殺したように見せかけただけさ」
「そこまでして、教官と付き合いたかったのか」
「そうだよ。ずっとずっと君のことが邪魔だった」
「そうか」
「それに僕は、軍を辞めようと思ってる。僕は教官に看取らせたりしない」
ニコルは、教官と付き合うという目的を達成できたはずなのに、満足そうな顔はしていなかった。
どこか悲しげで、とても責める気にはなれない。
あるいは、ニコルが教官の妹を本当に殺していたのだったら気持ちは変わったかもしれない。
だけど今の俺はただやるせない気持ちでニコルを部屋から追い出した。
ーーやっぱあいつ危険だろ
ーーあのジルに構ったりするから
集まった奴らは口々に好きなことを言っている。
「ニコル、悪い。痣に当たっちまったか?」
「あ、痣は君が作ったんじゃないか。僕もエドガー教官のことが好きって……そう言っただけなのに」
「え?」
ニコルが教官のことが好き?
そんな話は一回も聞いたことがなくて、まさに寝耳に水の状態だった。
「お前ら何をやってる! 散れ」
エドガー教官が騒ぎを聞きつけて食堂にやってきて、俺たちの周りに集まっていた生徒を解散させた。
「教官っ。僕、腕を掴まれて……、怖かったんです」
「見せてみろ」
教官はニコルの腕を確認してから俺を見た。
「ジル。手を出せ」
「はい」
大人しく手を出すと、ニコルの腕の痣と重ねられる。
「ぴったり同じだな。まぁ、手の大きさなんてそんなに変わるもんじゃないだろうが、目撃者も多い」
「そんな……俺、そんな強くつかんでなんか」
「言い訳はよせ。とりあえず、お前は自室に戻って沙汰を待て」
「教官……」
「ニコル、大丈夫か?」
教官は俺を無視してニコルを心配そうに見た。
ニコルは俺を見てニヤリと笑った。
訳がわからない。
俺はニコルに恨まれるようなことをしたのだろうか。
いや、ニコルも本当に教官が好きだったから、邪魔な俺を排除した?
だけど、俺は教官に嫌われてるのだから、わざわざそんなことしなくても良いのに。
自室に戻っていると、トントンとノックをされた。
沙汰が出るにしては早いよなと思いながら返事をしてドアを開けると、そこにはニコルが立っていた。
「ニコル……。お前、よくここに来れたな」
「そんな怖い顔しないでよ。とりあえず中に入れて? 大事な報告に来たんだ」
「大事な報告?」
こんなところで立ち話をしているところを誰かに見られても困るので、半身をずらして、ニコルを招き入れた。
ニコルはまるで自分の部屋のように、俺のベットにドカリと腰掛けて俺を見てほくそ笑んだ。
「僕、エドガー教官と付き合うことになったんだ、その報告。だからもうちょっかい出さないでね」
「付き合う……?」
「そ。やっとここまで来れたよ。前の世界の時は、教官もジルも僕なんて全く眼中にも無かったんだから」
「前の世界だって……?」
「ジルもきっと僕と同じ世界線に居たんだろ? 僕の方が数年先にこの世界に来たようだけど」
「なん、で?」
「ここがパラレルワールドだって気がついてるんでしょう? だってパラレルワールドについて僕が教えてあげたんだもんね。僕はパラレルワールドについて研究したんだ。本当は僕だけがここに来るはずだったんだけど、何かの拍子に君も来ちゃったみたいでね」
「なんでこんなことするんだ」
「教官が好きだからだよ。あの世界で教官は君にベタ惚れだった。あの戦いの時、負傷した僕が死ぬはずだったのを、教官が庇ってくれて、僕はすごく嬉しかった。なのに、そのすぐ後に君が教官を庇って死んだ」
パラレルワールドについて教えてくれたのは確かにニコルだった。
俺が死ぬ時、教官が庇ったのもニコルだ。
「君が死んだ後の教官はどんどん弱って行ったよ。寂しそうで、辛そうで、数年後に君の後を追うようにして亡くなった」
「そんな」
「だからね、この世界で僕は、君が教官から嫌われるように仕向けた。色々やっちゃいけないこともやった。そしてまんまと君は嫌われて、僕は晴れて教官の恋人になれた」
「……教官の妹を殺したのもお前なのか」
「ふ、ふは。それは僕じゃない。あの子は病気だったんだよ。前の世界でもそうだったろ。前の世界でだってあの子は僕たちに会うより前に死んでいた。僕は病気で死んだあの子を、黒髪の男が殺したように見せかけただけさ」
「そこまでして、教官と付き合いたかったのか」
「そうだよ。ずっとずっと君のことが邪魔だった」
「そうか」
「それに僕は、軍を辞めようと思ってる。僕は教官に看取らせたりしない」
ニコルは、教官と付き合うという目的を達成できたはずなのに、満足そうな顔はしていなかった。
どこか悲しげで、とても責める気にはなれない。
あるいは、ニコルが教官の妹を本当に殺していたのだったら気持ちは変わったかもしれない。
だけど今の俺はただやるせない気持ちでニコルを部屋から追い出した。
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