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11 教官の部屋

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点滴を打たれて痛み止めを処方してもらい、俺はまた外に出た。
さっきまでぬくぬくの布団の中にいたから夜になった外の空気が冷たくて、目が覚める。
痛み止めは俺の体によく効いて、久々に最高の気分だった。

「何してる」
「わああっ、教官!? ってて」

後ろから突然声をかけられビックリした拍子に変に力が入って傷口が痛んだ。

「医務室で寝ていろ」
「あー。痛み止めも効いてるんで俺はもう平気です。ありがとうございました」
「今は痛くないかもしれないが、それは薬のおかげだろう。ちゃんと医務室にいろ」
「でも、負傷者も多勢います。医務室のベットは1つでも多いに越したことないでしょう?」
「っ……くそ。こい」
「あ、ちょっと」

教官は俺の腕をつかんで引っ張った。
抵抗すると痛み止めも関係なく痛むので俺は仕方なく引っ張られるままに歩く。

連れて行かれたのは教官室だ。
訓練兵は全員で雑魚寝だが、教官は1人1部屋ある。

「俺の部屋だ。ここで休め」
「そんな訳には」
「お前は傷をおしてまで仲間を捜索した。その礼だ」
「え……。俺のこと、信じてくれたんですか」
「お前のことはまだ疑っている。だが、今回黒髪の男の顔は誰にも目撃されていなかった。疑わしきは罰せずだ」

全員が無事で見つかったのに、まだ疑われているのだという事実に打ちのめされそうになった。

「そう、ですか。でも俺、雑魚寝で十分ですから……教官もお疲れでしょう。ゆっくり休んでください。失礼します」

ちっ、と舌打ちが聞こえて、次の瞬間には俺の視界は反転した。
ボフっとベットに倒れたことは分かったが状況はいまいち分からず混乱していると、教官が俺に布団をかけた。

「教官命令だ。今日はここで休め」

低くイラついた声だ。

「でも」

なおも断ろうとすると教官は、ため息をつき上着を脱いで俺の横に入ってきた。

「えっ、あの」
「なんだ、お前は俺のことを好きだと言っていただろう。添い寝しかしてやれないが、これも礼のついでだ」

なんてことないように言ってのける教官に俺の心は張り裂けそうだ。
教官の温もりや匂いは、俺の好きな隊長と同じなのに、俺に何の気持ちもない教官の温もりを感じるのは辛かった。
それでも教官は逃げ出そうとする俺を抱き枕よろしく引き止めるので、抱きつき返してみた。

教官はピクッと体が動いた後、腕の力を少し強めて俺を抱きしめ背中をさすってくれた。
ポンポンと優しく背中を叩かれて変に入っていた力が抜けていくのが分かった。

この人は何がしたいんだろう。
俺を疑っているくせに、俺を甘やかしたりなんかして。
いっそのこと、大好きな隊長とは全く違う人だったならよかったのに。

その後、船は無事訓練基地の港に着いた。

訓練兵は皆、疲れた顔をして訓練基地へ帰還した。

2日後からまた訓練が始まった。

「お疲れ。サバイバル訓練はどうだったの?」
「ああ、ニコル。負傷者が多勢出て大変だったよ」

食堂で昼食をとっていると、俺に唯一気さくに話しかけてくれる一学年上のニコルが同席してきた。


「噂聞いたよ、黒髪の話。君がやったんじゃないかって噂されてるけど、そんなの気にしなくていいと思うよ」

ニッコリと笑ってそう言ったニコルは本当にいいやつだ。

「ああ、ありがとう。ニコルもなんだかやつれてないか?」
「え? そうかな」

ニコルが自分の頬を手で触って確認したとき、袖口から見えた手首が青く変色しているのが分かった。

「ニコル、腕どうしたんだ?」
「えっえ? なにが?」

戸惑ったようなニコルの言葉も無視してニコルの手を取って袖をまくり上げると、誰かに掴まれたのか、手の形でくっきりと青痣になっていた。

「なっ、何するんだよ! 離して! 痛い!!」

青痣に触ってはいないのに、ニコルが突然大声をあげたのでビックリして手を離すと、周りにいた人が何事かと近づいてきた。
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