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「愛してる、ジル」
「俺もです、エドガー隊長」
俺の大好きな人、エドガー・フォン・ドランザーは銀髪を短く切りそろえ、綺麗な青い目をしている。優しげに目を細めて笑う顔が大好きだ。
俺とエドガー隊長は自他共に認める相思相愛の恋人だ。
平民から軍に入った俺の上司がエドガー隊長だった。
エドガー隊長は軍の学校で教官を務めていたが、俺たちの卒業と同時に隊を持った。
エドガー隊長は公爵家の人間で、俺は平民だったけど、隊長は分け隔てなく接してくれて俺たち平民上がりの隊員もよく飲みに連れて行ってくれた。
他の隊の話を聞く限りだと、エドガー隊長のような貴族様はなかなかいないらしい。
それに何と言ってもエドガー隊長は俺の命の恩人だし。
俺はエドガー隊長の隊に入れたことが誇りだった。
だから、彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。
「ジル!!!」
俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。
隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。
「ジル!」
「……隊長……お怪我は……?」
「……ない。ジルが庇ってくれたからな」
隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。
目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。
目は少し濡れて、キラキラと光っていて、こんな時なのに綺麗だなと思った。
先ほどまでジンジンと痺れていたような体の感覚も今の俺にはもうなくて、力を入れようとしても全く入らない。
俺はこのまま死ぬのだろう。
だけど、隊長を守れて死ねるのなら満足だと思った。
欲を言えば、もう少し一緒に居たかった。
「ジル、ジル……愛してる……ずっとお前だけを愛してる」
「……嬉しい、けど……他の、相手を見つけて……その代わり、来世はまた……一緒に」
口の端をあげられたかは分からない。
俺の意識はそこでプツリときれた。
目を覚ますと懐かしい天井が目に入った。
俺が軍に入るまでお世話になっていた家の天井だ。
雨漏りをした後がうさぎの形に染みになっていて、俺はそれが何だか可愛くていつも朝起きたときはそれを見ていた。
ここに居るってことは俺は死ななかったのだろうか。
あの大怪我で死ななかったなんて信じられない気持ちだけど、夢だと思うには手に触れるシーツの感覚がリアルだ。
「義兄さん、起きてください。今日は入学式でしょう?」
「あ、ああ。マルセル……?」
扉を開けて入ってきたのは、この家の息子で、俺の1つ年下の義弟だった。
やはりこれは夢らしい。記憶にある義弟の姿よりもかなり幼く見える。
これは走馬灯というやつで、俺の昔の記憶を見ているのだろうか。
「ほら、早くしないと間に合いませんよ。それとも……もしかして体調が悪いんですか? 大丈夫ですか?」
マルセルは心配そうに眉を寄せて俺を見た。
「体調……は、平気だな」
そう答えるとマルセルは安心したように息をついた。
「そうですか、良かったです。義兄さんは1年遅れて入学になってしまったから不安で」
「1年遅れて……?」
過去の記憶か何かを追体験しているのかと思い始めていた俺の考えは否定された。
俺は15歳で入学する軍の学校にちゃんと15歳から通ったからだ。
「義兄さん。もしかして寝ぼけているんですか? 去年入学試験の日に盗賊に襲われて怪我して試験受けられなかったでしょう?」
「そ、そうか。そうだった、かな?」
マルセルが困惑気味に俺に説明するのを、俺は混乱する頭でうなずいた。
マルセルに促されるままベットから起き上がり歯を磨くために表の井戸に向かった。
井戸の柱に申し訳程度につけられた鏡を何となしに見て驚いた。
若い頃の自分だ。顔や体のあちこちを触って確かめてもやっぱりつけられた刀傷ひとつ見当たらない。
これは一体どういうことなのだろうか。
「俺もです、エドガー隊長」
俺の大好きな人、エドガー・フォン・ドランザーは銀髪を短く切りそろえ、綺麗な青い目をしている。優しげに目を細めて笑う顔が大好きだ。
俺とエドガー隊長は自他共に認める相思相愛の恋人だ。
平民から軍に入った俺の上司がエドガー隊長だった。
エドガー隊長は軍の学校で教官を務めていたが、俺たちの卒業と同時に隊を持った。
エドガー隊長は公爵家の人間で、俺は平民だったけど、隊長は分け隔てなく接してくれて俺たち平民上がりの隊員もよく飲みに連れて行ってくれた。
他の隊の話を聞く限りだと、エドガー隊長のような貴族様はなかなかいないらしい。
それに何と言ってもエドガー隊長は俺の命の恩人だし。
俺はエドガー隊長の隊に入れたことが誇りだった。
だから、彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。
「ジル!!!」
俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。
隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。
「ジル!」
「……隊長……お怪我は……?」
「……ない。ジルが庇ってくれたからな」
隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。
目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。
目は少し濡れて、キラキラと光っていて、こんな時なのに綺麗だなと思った。
先ほどまでジンジンと痺れていたような体の感覚も今の俺にはもうなくて、力を入れようとしても全く入らない。
俺はこのまま死ぬのだろう。
だけど、隊長を守れて死ねるのなら満足だと思った。
欲を言えば、もう少し一緒に居たかった。
「ジル、ジル……愛してる……ずっとお前だけを愛してる」
「……嬉しい、けど……他の、相手を見つけて……その代わり、来世はまた……一緒に」
口の端をあげられたかは分からない。
俺の意識はそこでプツリときれた。
目を覚ますと懐かしい天井が目に入った。
俺が軍に入るまでお世話になっていた家の天井だ。
雨漏りをした後がうさぎの形に染みになっていて、俺はそれが何だか可愛くていつも朝起きたときはそれを見ていた。
ここに居るってことは俺は死ななかったのだろうか。
あの大怪我で死ななかったなんて信じられない気持ちだけど、夢だと思うには手に触れるシーツの感覚がリアルだ。
「義兄さん、起きてください。今日は入学式でしょう?」
「あ、ああ。マルセル……?」
扉を開けて入ってきたのは、この家の息子で、俺の1つ年下の義弟だった。
やはりこれは夢らしい。記憶にある義弟の姿よりもかなり幼く見える。
これは走馬灯というやつで、俺の昔の記憶を見ているのだろうか。
「ほら、早くしないと間に合いませんよ。それとも……もしかして体調が悪いんですか? 大丈夫ですか?」
マルセルは心配そうに眉を寄せて俺を見た。
「体調……は、平気だな」
そう答えるとマルセルは安心したように息をついた。
「そうですか、良かったです。義兄さんは1年遅れて入学になってしまったから不安で」
「1年遅れて……?」
過去の記憶か何かを追体験しているのかと思い始めていた俺の考えは否定された。
俺は15歳で入学する軍の学校にちゃんと15歳から通ったからだ。
「義兄さん。もしかして寝ぼけているんですか? 去年入学試験の日に盗賊に襲われて怪我して試験受けられなかったでしょう?」
「そ、そうか。そうだった、かな?」
マルセルが困惑気味に俺に説明するのを、俺は混乱する頭でうなずいた。
マルセルに促されるままベットから起き上がり歯を磨くために表の井戸に向かった。
井戸の柱に申し訳程度につけられた鏡を何となしに見て驚いた。
若い頃の自分だ。顔や体のあちこちを触って確かめてもやっぱりつけられた刀傷ひとつ見当たらない。
これは一体どういうことなのだろうか。
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