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29章:その夜の意味

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「んっ」

 すぐに噛みつくようにキスをされて、上の歯をなぞられる。修の舌が私の舌に触れれば、後はお互いに舌を絡め合い、室内に湿った音だけが充満する。

 修はキスをしながら、器用にワンピースを脱がせた。ワンピースは簡単に脱がすことができる上に、下着まで流れるように取られて、一瞬のためらいも許されない時間の中で、すぐに生まれたままの姿になる。

 修はもう一度舌を絡ませたキスをした後、私にのしかかった状態で自分も乱暴に服を脱いだ。そして私を見下ろして、目を細めた。

「相変わらずきれいなままだ」
「なに言って……ひゃっ……!」

 私の身体が喜ぶ場所を全部わかっているかのように、順に口づけ、触れていく。

 怖くて手をのばせば、大事そうに抱きしめられる。

 5年前はどうだっただろう。何をされるのかわからなくて怖くて……修が見たことない男の人のように思えて、こんなことを望んでると知ったら泣きたくなった。

ーーーでも、今はどうだ。

 修がこうやって自分を求めてくれることが嬉しくて、自分だって修にこうされることが嬉しくて……身体も、心も、全部が修を求めてる。

 もっと高いところに上りたいと、自分からねだるように修の背中を掴んでいる。

 それに応えるように、いや、それ以上に、修は私の欲しいものを与え続けた。

「どうしよっ……んっ! あっ、変なの、んんっ、おかしくなるっ……! へっ、変だから、は、恥ずかしいっ……あぁっ……! も、もう見られたくないっ!」

「全部見せて。大丈夫、もっと好きになるだけだから」

―――言葉さえも、全て。

 いつも触れられる以上に、何度も何度も高いところにのぼって、息がくるしくなる。
 胸の奥、お腹の底から修が欲しくなって手をのばせば、修はその手に愛おしそうに頬ずりして、それから、目を細めて私を見つめた。

 修と一つになる直前。やっぱりそれは怖くなって目を瞑った私に、修は「見てなさい」とはっきりと言った。
 こわい、けど、それはきっと私たちの時計を進めるための儀式のような気がして、私はゆっくり目を開く。

「いい子だ」

 修が微笑んで私に軽いキスをすると、そのままその時計を進める。

「んっ!」
「目をそらすな。あの時は、痛かったよな。今日は?」
「んっ、ちょっとだけ……! でも、ぁっ……!」

 全然違った。
 あの時と、今と。

 修は愛おしそうに私を見て、それから、それ以上に高く昇れる場所を探り続ける。

「うん。ここは?」
「ひゃぁああんっ……!」

 変な声がでて、思わず口をふさぐと、その手を取ってベッドに縫い付けられた。
 代わりに、舌を絡められて、もっと声を出して、と囁かれる。

 それからは、なんだかぼうっとした意識の中、肌を何度も合わせ合い、自分の口から洩れる言葉にならない音が室内に響いていた。

「くるみ、気持ちいい」
「修……、修ッ」
「かわいい、くるみ。俺だけのものだ」

 何度もキスをして、何度も抱きしめて……。
 目の前にある修の幸せそうな顔を見ていると、心の中が暖かいもので満たされる。

「気持ちいっ……」
「あぁ、すごく気持ちいいな。俺とくるみだからできる気持ちいいことだから……。身体でも、心でも覚えて」

 これはお互いの愛を確かめ合う行為なんだと知った気がした。

 私は熱を持った手を修の背中に回して、修に自分からキスをする。


「好き、私、修のことが好きっ。全部、修の好きにしてほしいっ……」


 失いそうな意識の中、確かそんなことを口走った気がする。
 修が少し驚いた顔をした後、余裕のない顔で私を見つめた。

「……そんなこと言うのは反則。悪い子だ」

 それから先のことは、あまりにも私の想像を超えていて、ほとんど記憶がない。
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