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28章:2度目のプロポーズ
28-2
しおりを挟む「行こうか」
食事を終えて、静かに修が告げる。
私の胸は大きくどきりと跳ねた。
指を絡められて手を繋がれ、胸がドッドッドッと鳴り響く。
そのまま手を引いて、エレベータに乗せられた。
私は修をずっと見ていて、修はそんな私に気づいて、私を見て目を細めて微笑む。そんな修を見て、また胸が高鳴った。
(どうしよう、今日一日だけでまたどんどん好きになってる……)
今思い出したけど、レストランは都内屈指のホテルの中にあった。
ってことは、このまま……。
今日、私は……。
そう思うと、やけに緊張し始めて、泣きそうになる。
(こんな状態で、最後まで、なんてできるのだろうか……?)
すでに心臓がもちそうにないのは確かだ。
エレベータが止まる音がして、私はその音にぎゅっと目を瞑る。気付いたら泣いていた。
(やっぱり、緊張しすぎて今日は無理だ!)
「あの……あのね! 修、私……今日……」
「帰ろう」
「……え?」
そう言われて、拍子抜けする。
見てみると、エレベータはホテルの1階についていた。
帰るって……家に帰るってこと、だよね?
家でするってこと……?
(ま、まさか、なにかに呆れられた⁉)
緊張しすぎて泣いたから?
それとも握られた手に尋常じゃないくらい汗をかいていたからだろうか。
車にのりこみ、車は確かに家までの道を通っていた。
私は助手席で下を向いて自分の手を握る。
(これからのことがわからない……)
「着いたぞ」
修が言って、私は顔を上げた。
「え……? ここ……」
そこにはすごく見覚えがあった。
今の私の家……にほど近い、マンション。
「修の住んでたマンション……?」
それは5年前まで修が住んでいたマンションだった。
そして私も2週間だけ一緒に住んでたところ。
修は私の顔を見てうなずくと、当たり前みたいに車を駐車場に止めて、私を助手席から降ろすと、私の手を握ったままマンション内に入っていった。
「ここ」
エレベータに乗せられ、連れられた先で修が言う。
見上げると部屋番号も……以前と同じ部屋の前。
私はあれから、このマンションに近づくことはなかった。
忘れたかったから、余計に……。
(どうしてこんなところに私を連れてきたの?)
私が修を見上げると、修は目を細めて、ドアを開け、私を中に引き入れた。
室内まで、5年前のまま。家具やキッチン周りのものまで、そのまま……。
「ど、どういうこと……?」
私がつぶやくと、修は目を細めて私を見つめる。
「あれからそのままずっとここを置いてもらってたんだ。5年間、管理会社に管理はしてもらってて」
ここは5年間、今もずっとこのままだった。
電気や水道まで……普通に通っている。
ーーーちょっと待てよ? ってことは、
「ちょ、ちょっと待って……そもそも住む場所がないから、私のところに転がり込んできたんじゃなかったの⁉」
私は叫ぶ。
そうだ。最初に彼は言ったはずだ。
『まだマンションが決まらないから決まるまでの一か月住む』と。
私が怒りに震えていると、修はふっと笑って口を開く。
「そんなことあるわけないだろ。くるみは相変わらず騙されやすすぎ」
「何考えてんだぁああああああああ!」
最初から、住む家はあったのに私のところに転がり込んできたってことですよね⁉
しかも私の部屋の何倍も広いこのマンションがあって……! 私の狭いアパートなんかに……!
(意味が、意味が分からない……!)
私が混乱しているというのに、修はテーブルの上においてあったファイルを手に取ると、中身を私に見せた。
それは、脅し道具でもあった『婚姻届』。
「くるみ、これ探してただろ。ここにずっと置いてた」
「さがしても見つからないはずだ!」
「そうだな」
修は楽しそうに笑う。
(一体何なのよ!)
修は私を見て目を細めた。
「緊張は、少しは解けた?」
「緊張どころの騒ぎじゃないからね!」
(たしかに今、驚きすぎて緊張はしてないけど!)
「くるみの記憶、きちんと塗り替えたかったから」
修ははっきりとそう言うと、ひょいと私を抱き上げる。
暴れるより先、修が歩き出した。
向かった先は、修の、あのときの寝室だった。
あの時と全く違うのは、ベッドに優しく丁寧に置かれて、見上げた先にあったのが、修が優しく微笑んだ顔だったということ。
そんな修の顔を見ると、私の胸は驚くほど大きな音を立てて鳴り出す。
「修……?」
「言ったよな。プロポーズ受けたら抱くって。もちろん覚えてたよな?」
念を押すようにそう問われて、私の心臓はさらに音を立てて鳴りだした。
「くるみ、答えて」
低い口調でそう問われれば、勝手に首が縦に動いた。
「……う、うん」
色々混乱したままの私に、修は優しく口づける。
そうされると、急に緊張が解けた気がした。
「今回はきちんと見ていろ。くるみがされること全部、見て、感じて、鮮明に焼き付けろ」
修のギラギラした男の目に、その低い声に……身体が熱を持った気がした。
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