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26章:大好き

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 修の動きがぴたりと止まって、驚いたように私を見ていた。

「くるみ? どうした」
「今して。今がいい」

 私は修の胸に顔をうずめる。
 きっとそうすれば……最後まですれば、なにか変わると思った。

 この不安がなくなるかもしれないって。

「なにかあった?」
「いやなの。これ以上差がつくのも、振り回されるのも」


 修は小さく息を吐いて、静かに私の髪を撫でる。
 私は修に抱きついたまま、首を横に振った。

 そのうち、背中に腕が回され、背中を優しく叩く感触がした。まるで子どもをあやすみたいに。

 私は顔を上げると、眉を寄せる。

「子ども扱いしないでっ!」
「子どもじゃないなら、今日あったこと全部言えるな」
「っ……」

 私は思わず口を噤む。
 修を見ると、修は、言いなさい、ともう一度念を押すように言った。

 私は息を吸い、今から聞くかもしれないことを覚悟して口を開く。

「ひ、姫下さんって人に会った」
「姫下? 外科の?」

 修は驚く様子もなく、静かに聞き返してくる。
 私は修のその様子にまた眉を寄せて、修を見返した。

「彼女と付き合ってた? それで身体の関係もあった?」
「まさか」
「嘘つかないでよ! そんな嘘つかれるたびに、余計に私は不安になるっ……」

 私はいつの間にかボロボロ泣いていた。

 だって、修が大学時代にそういう関係が誰かとあったことがあるのはもう本人からも聞いていたから。
 修は息を吐き、静かに言葉を吐き出した。

「姫下が、俺に好意を持ってくれてるのは知ってるし、実際に何度か告白されたことはある」

 その言葉に修の顔を見上げると、修は、やっと顔上げたか、と目を細めた。

「でも、付き合ったことも、身体の関係を持ったこともない。これからも絶対ない」
「昔……修がそういうことした人は?」

「病院とも大学とも、全然関係ない子。その時だけの関係だった。くるみが気になるだろうから人に聞いてもらったけど、今はもう結婚してるらしい」

 修はそういうと、また目を細めて、私の頬を撫でる。「……言いたくなかったけど、くるみに似てたってだけ」

「やっぱ最低」
「そうだよな」

 修はそう言って苦笑する。「最低だった時代の俺も含めて、くるみに知ってほしい。隠し事をするつもりはもうない」

 修は当たり前のようにそう言った。

「最低な男だって、嫌いになった?」
「最低なのはわかってた」
「だな」

 修はまた苦笑して、それから私の頭を軽く叩いて私の目を覗き込む。

「それで? 姫下とのことを誤解してヤキモチやいて、抱いてくれって言ったってことでいい?」
「そういうことじゃっ」
「ない?」
「なくないけど……」

(でも、それじゃ全面的に私が負けたみたいだよね……)

 私が頬を膨らませると、修は楽しそうに笑って、私を抱きしめた。

「今、抱きたくなった」

 そう耳元で囁かれて息が詰まる。
 その言葉に、さっきまでできていた覚悟が、一歩下がっていたことに気づいた。

 身体が固くなった時、それが分かったのか修が小さく笑う気配がする。

「大丈夫。土曜まで我慢するから」

 修はそう言うと、私を抱きしめる腕の力を強くした。「必死なんだよ。もう二度としたくないって思ってほしくないから」

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