上 下
45 / 57
16章:俺と彼女と彼女の父親(side羽柴)

16-1

しおりを挟む


―――私、このまま先輩とずっと一緒にいたい。

眠りに入る前、彼女がつぶやいて、
その言葉に思わず泣きそうになった。



 高校3年生の時。
 思い出したのは、あの時、あの瞬間。

 高校生の頃の自分は、モテてるって自覚もあったし、自分の父親のことでイラつくことも多くて、女の子に誘われれば手を出すくらいのことは当たり前にしていた。

 どこか世間を斜めに見ていた。どうせ大学を卒業すれば父の一族の会社に入ると決まっていることも知っていたから、余計だったのかもしれない。

 自分では『自分はとっくに大人になっている。』と思ってて、かわいげもない高校生だったと思う。外面はいいくせに、内面では毎日やけにイライラしていた。

 女の子とそういう事をする以外に、ストレス発散になったことと言えば、走ることくらいだった。だから陸上部にいたのだ。昔から走ることだけはなぜか好きだった。その時は単純に、何も考えないでいられるから走ることが好きなのだと思っていた。


 3年になった時、1年のみゆが陸上部に入ってきて、最初はみゆの走る姿を見て気になった。きれいなフォームだな、と思った。どこか、自分のそれに似ている気がした。

 自分から誰かに興味を持つははじめてだったので戸惑いがあったのは事実だ。

 ただ、みゆのほうも俺のことが好きだろうって思ってた。俺は外面だけは良かったし、顔も整ってると自覚している。でも、みゆは周りの目ばかり気にして、絶対にみゆから近づいてこなかった。

 少々強引にいけば……無理やりにでも身体を重ねれば、きっと彼女が落ちるのは時間の問題だろうと、今思えば、そんな最低なことを考えていたと思う。



 そしてあの日。
 強引に行こうとして、飛び蹴りされて、入院したあの日。

 あの瞬間。
 俺の脳裏には、ある一つのシーンが流れていた。


―――女の子と手をつないで必死に走ったあの日のことだ。



 どうしてあんなものを急に思い出したのだろう。
 悩んでいたが、答えは案外すぐに見つかった。


「みゆが……本当に、申し訳ありませんでした」

 みゆの飛び蹴りでけがをして入院している時、そう言って俺の入院先の病院にやってきたのは、みゆの父親で刑事の柊風太だった。


「……いや、みゆが悪いんじゃないですから」

 みゆの飛び蹴りが原因の事故だなんて、誰にも言ってなかった。みゆもたぶん誰にも言わないだろうと思った。自分は慌てる彼女に口止めをしたのだ。

 それにみゆが悪いんじゃないって、俺自身はわかっていたから。
 強引にみゆを抱こうとした自分が完全に悪い。


 でも、みゆの様子からわかったらしいみゆの父は、みゆに告げずに、俺の入院先の病院に現れたのだ。
 刑事と言うのは、勘が鋭いものなんだろうと、その時、そんなことを思った。


「俺が悪いんです」

 そう言った俺に、でも入院費だけは出させて、親御さんにも話はつけてあるから、とみゆの父はなおも頭を下げた。
 

「わかりましたけど……本当に、それ以上はやめてください」
「あぁ、ありがとう」

 そう言って顔を上げたみゆの父親の顔をまっすぐ見たとき、思い出したのだ。


「あなた……あのときの? 会ったこと、ありますよね……」

 混乱して、そんなことを言ったと思う。「昔……一度お見かけしたことがあって。小学生の時です。そのあと、テレビで見て……」

 混乱したように俺が言うと、みゆの父は本当に驚いた顔をした。

「……もしかして、覚えてたの? 忘れてるんだと……」
「正確には、怪我をした時に思い出したんです」



 ちょうど飛び蹴りされた時に見た夢。
 女の子の手をつないで必死に走ってた小学生の自分。


「僕も君が、毎日みゆを家まで送ってきてくれてるのを見て、気づいて驚いた。あの時、君は自分から名乗り出ることはなかったし、どこのだれかもわからなかったから。それに、みゆは、本当にあの時のことを覚えてないし。それが理由にはならないだろうけど、なかなかお礼を言えなくて、申し訳なかった。だからきちんと言わせて。本当にありがとう……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

私はオタクに囲まれて逃げられない!

椿蛍
恋愛
私、新織鈴子(にいおりすずこ)、大手製菓会社に勤める28歳OL身。 職場では美人で頼れる先輩なんて言われている。 それは仮の姿。 真の姿はBL作家の新藤鈴々(しんどうりり)! 私の推しは営業部部長の一野瀬貴仁(いちのせたかひと)さん。 海外支店帰りの社長のお気に入り。 若くして部長になったイケメンエリート男。 そして、もう一人。 営業部のエース葉山晴葵(はやまはるき)君。 私の心のツートップ。 彼らをモデルにBL小説を書く日々。 二人を陰から見守りながら、毎日楽しく過ごしている。 そんな私に一野瀬部長が『付き合わないか?』なんて言ってきた。 なぜ私? こんな私がハイスぺ部長となんか付き合えるわけない! けれど、一野瀬部長にもなにやら秘密があるらしく―――? 【初出2021.10.15 改稿2023.6.27】 ★気持ちは全年齢のつもり。念のためのR-15です。 ★今回、話の特性上、BL表現含みます。ご了承ください。BL表現に苦手な方はススッーとスクロールしてください。 ★また今作はラブコメに振り切っているので、お遊び要素が多いです。ご注意ください。

処理中です...