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14章:同棲スタート?

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「おはよ、みゆ」
「おはようございま……」

 目を開けると目の前に先輩の顔。
 そっか、昨日先輩の家に泊まったんだ……。

 ベッドの中、そういうこともしないで、ただ、キスして先輩の腕の中で眠った。
 考えてみればこういう事って初めてかもしれない。

 ただ二人でいるだけの時間は、いつも抱き合うときにみたいにドキドキするんじゃなくて、安心して、すごく心地よくて……いつもより早々に寝てしまったのだ。

 そして先輩と一緒にいると言うのに、私はまた先輩との夢を見ていた。
 寝ても覚めても一緒とは、このことだろうか。夢まで見てたなんて、恥ずかしくて先輩には言わないけど。



「ごめん、起こしちゃったね」
 先輩は目の前でクスリと笑って、私の髪を撫でる。

「今何時ですか?」
「11時」
「えぇ……!」

 もしかして半日くらい寝てました?
 驚く私をみて、先輩は楽しそうに笑った後、

「大丈夫、休みだから。それよりお腹は大丈夫?」

と聞いてくる。あ、そうだ。
 私は生理痛でちょっとおなか痛くて。でも……

「はい……これのおかげで」

 私はブラウンのブランケットを指さす。それは昨夜、お腹は温める方がいいよね、と先輩が買ってくれたものだった。


「よかった」
「それより、先輩起きてたなら私も起こしてくださいよ」
「なかなかゆっくりみゆの顔見れないし。ずっと見てても飽きないから見てたの」

 先輩はなんだか朝からとっても楽しそうだ。
 目を細めて、私の顔を甘い目で見つめている。

 どうしたんだろ、と思って、ふと、嫌な予感がした。


「ま、まさか、わ、私、変な寝言言ってませんでした?」
「あぁ……」

 先輩は思い当たるところがあったようで、目をそらせた。
 その様子に、ごくりと息を飲み込む。

「な、なんですか……」
「うーん」
「教えてください!」
「俺のこと、呼んでた」
「う、嘘……」
「本当」


(ですよねーーーーー⁉ 夢でも先輩と会ってましたもん!)

 っていうか恥ずかしい。恥ずかしすぎる!
 寝てまで先輩の夢を見てたのに気づかれたようで、私の中の羞恥心の針が完全に振りきれそうだ。

 先輩は私の身体をぎゅうと抱きしめると、

「何回も俺のこと呼ぶし、声かわいいし、タガが外れるかと思った」

 それはさすがに……。と言って眉を寄せると、先輩はまた楽しそうに笑った。


 そして先輩は息をつく。

「幸せだなぁって思う。こうして朝からみゆと一緒にいられて幸せ」

 先輩がそう言って、私は思わず先輩の胸に額をうずめ、
「私も……」
とつぶやいた。

 なんか先輩といるとね、自分が自分じゃないみたい。
 昨日だって、あんな混乱気味に取り乱して、自分の意見がまとまらないまま誰かに滅茶苦茶言ったのは初めてかもしれない。

 先輩と二人の時は、自分の気持ちが勝手にあふれ出てくる気がする。



 そうしていると、先輩はため息のように息を漏らす。私の胸がどきりとした。

「なんでため息つくんですか……」

(私、変なこと言った⁉ いや、呆れられた⁉)

 慌てる私に、先輩はまた抱きしめる腕の力を強めると、

「かわいすぎ。もう悶え死にそう」
「……ちょっと意味がわかりません」
「やっと、随分素直になってきたよね。昔はさ、本当に何も言ってくれなかったし」

 そう言って先輩は私の髪を撫でる。

「……それは」
「みゆは周りの目ばかり気にしてたからね」

 確かにその側面はある。でも…。

「……きっと今も変わってませんけど」

 今だって私は人の目を気にしてるのは変わっていないと思う。
 二人の時は慣れてきたけど……。


「そうかな?」
「……え?」
「昨日も、一樹の前で抱きしめた時、もっと怒るかと思った」

 先輩はいたずらっぽく言う。
 私は、う……と言葉に詰まって、

「それは……久しぶりに先輩の顔見て……嬉しかったから」

とつぶやいた。

 昨夜は……久しぶりに会って、顔見て、嬉しくて……
 一瞬、副社長がいるの、忘れたんだ……。



「なにその攻撃力……」

 先輩は困ったように笑う。「みゆが弁護士とか検事になってなくてよかったよ。絶対負ける自信ある」

 眉を寄せた私を見て、ふふ、と楽しそうに先輩は笑うと、私の身体をそっと離した。

「朝食、いやもう昼食か。何か食べに行く? それとも何か作ろうか?」
とベッドから起き上がる。「ちょっと先にシャワー浴びてくるね」


 その先輩の服を思わず掴んでいた。

「みゆ……?」

 あれ、なんで掴んでるんだっけ。
 でも、今……

「……もう少しだけ」

―――抱きしめられてたいって思ったの。


 先輩は嬉しそうに笑った後、私をもう一度抱きしめて、

「はぁ……このかわいいの、どうすればいいの」
とつぶやいた。


 結局ゆっくり二人で過ごして、いつの間にか夕方になっていた。

 日曜の夕方。明日も仕事だし帰らなきゃいけない。時間の経過って速いんだなぁって思って、それはきっと先輩といるからだろう、と素直に心の中で認めていた。

 すると先輩も同じように考えていたのか、

「時間すぎるの速いね。でも、帰さなきゃだよね」

とつぶやいた。
 私はそれを聞いて自分の手を握る。

「みゆ?」
「まだ一緒にいられたらいいのに」
「そんなの……」

 先輩が何か言いかけて、やめた。
 なんとなく、『結婚すればいいだけの話』と言いたかったんじゃないかと思って、それを言えなくさせたのは自分だと、心が痛んだ。

 私は、先輩に甘えてるのかな。
 いつだって、私のペースも、私の気持ちも、大事にしてくれる先輩に……。

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