羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

文字の大きさ
上 下
40 / 57
14章:同棲スタート?

14-1

しおりを挟む


「おはよ、みゆ」
「おはようございま……」

 目を開けると目の前に先輩の顔。
 そっか、昨日先輩の家に泊まったんだ……。

 ベッドの中、そういうこともしないで、ただ、キスして先輩の腕の中で眠った。
 考えてみればこういう事って初めてかもしれない。

 ただ二人でいるだけの時間は、いつも抱き合うときにみたいにドキドキするんじゃなくて、安心して、すごく心地よくて……いつもより早々に寝てしまったのだ。

 そして先輩と一緒にいると言うのに、私はまた先輩との夢を見ていた。
 寝ても覚めても一緒とは、このことだろうか。夢まで見てたなんて、恥ずかしくて先輩には言わないけど。



「ごめん、起こしちゃったね」
 先輩は目の前でクスリと笑って、私の髪を撫でる。

「今何時ですか?」
「11時」
「えぇ……!」

 もしかして半日くらい寝てました?
 驚く私をみて、先輩は楽しそうに笑った後、

「大丈夫、休みだから。それよりお腹は大丈夫?」

と聞いてくる。あ、そうだ。
 私は生理痛でちょっとおなか痛くて。でも……

「はい……これのおかげで」

 私はブラウンのブランケットを指さす。それは昨夜、お腹は温める方がいいよね、と先輩が買ってくれたものだった。


「よかった」
「それより、先輩起きてたなら私も起こしてくださいよ」
「なかなかゆっくりみゆの顔見れないし。ずっと見てても飽きないから見てたの」

 先輩はなんだか朝からとっても楽しそうだ。
 目を細めて、私の顔を甘い目で見つめている。

 どうしたんだろ、と思って、ふと、嫌な予感がした。


「ま、まさか、わ、私、変な寝言言ってませんでした?」
「あぁ……」

 先輩は思い当たるところがあったようで、目をそらせた。
 その様子に、ごくりと息を飲み込む。

「な、なんですか……」
「うーん」
「教えてください!」
「俺のこと、呼んでた」
「う、嘘……」
「本当」


(ですよねーーーーー⁉ 夢でも先輩と会ってましたもん!)

 っていうか恥ずかしい。恥ずかしすぎる!
 寝てまで先輩の夢を見てたのに気づかれたようで、私の中の羞恥心の針が完全に振りきれそうだ。

 先輩は私の身体をぎゅうと抱きしめると、

「何回も俺のこと呼ぶし、声かわいいし、タガが外れるかと思った」

 それはさすがに……。と言って眉を寄せると、先輩はまた楽しそうに笑った。


 そして先輩は息をつく。

「幸せだなぁって思う。こうして朝からみゆと一緒にいられて幸せ」

 先輩がそう言って、私は思わず先輩の胸に額をうずめ、
「私も……」
とつぶやいた。

 なんか先輩といるとね、自分が自分じゃないみたい。
 昨日だって、あんな混乱気味に取り乱して、自分の意見がまとまらないまま誰かに滅茶苦茶言ったのは初めてかもしれない。

 先輩と二人の時は、自分の気持ちが勝手にあふれ出てくる気がする。



 そうしていると、先輩はため息のように息を漏らす。私の胸がどきりとした。

「なんでため息つくんですか……」

(私、変なこと言った⁉ いや、呆れられた⁉)

 慌てる私に、先輩はまた抱きしめる腕の力を強めると、

「かわいすぎ。もう悶え死にそう」
「……ちょっと意味がわかりません」
「やっと、随分素直になってきたよね。昔はさ、本当に何も言ってくれなかったし」

 そう言って先輩は私の髪を撫でる。

「……それは」
「みゆは周りの目ばかり気にしてたからね」

 確かにその側面はある。でも…。

「……きっと今も変わってませんけど」

 今だって私は人の目を気にしてるのは変わっていないと思う。
 二人の時は慣れてきたけど……。


「そうかな?」
「……え?」
「昨日も、一樹の前で抱きしめた時、もっと怒るかと思った」

 先輩はいたずらっぽく言う。
 私は、う……と言葉に詰まって、

「それは……久しぶりに先輩の顔見て……嬉しかったから」

とつぶやいた。

 昨夜は……久しぶりに会って、顔見て、嬉しくて……
 一瞬、副社長がいるの、忘れたんだ……。



「なにその攻撃力……」

 先輩は困ったように笑う。「みゆが弁護士とか検事になってなくてよかったよ。絶対負ける自信ある」

 眉を寄せた私を見て、ふふ、と楽しそうに先輩は笑うと、私の身体をそっと離した。

「朝食、いやもう昼食か。何か食べに行く? それとも何か作ろうか?」
とベッドから起き上がる。「ちょっと先にシャワー浴びてくるね」


 その先輩の服を思わず掴んでいた。

「みゆ……?」

 あれ、なんで掴んでるんだっけ。
 でも、今……

「……もう少しだけ」

―――抱きしめられてたいって思ったの。


 先輩は嬉しそうに笑った後、私をもう一度抱きしめて、

「はぁ……このかわいいの、どうすればいいの」
とつぶやいた。


 結局ゆっくり二人で過ごして、いつの間にか夕方になっていた。

 日曜の夕方。明日も仕事だし帰らなきゃいけない。時間の経過って速いんだなぁって思って、それはきっと先輩といるからだろう、と素直に心の中で認めていた。

 すると先輩も同じように考えていたのか、

「時間すぎるの速いね。でも、帰さなきゃだよね」

とつぶやいた。
 私はそれを聞いて自分の手を握る。

「みゆ?」
「まだ一緒にいられたらいいのに」
「そんなの……」

 先輩が何か言いかけて、やめた。
 なんとなく、『結婚すればいいだけの話』と言いたかったんじゃないかと思って、それを言えなくさせたのは自分だと、心が痛んだ。

 私は、先輩に甘えてるのかな。
 いつだって、私のペースも、私の気持ちも、大事にしてくれる先輩に……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...