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13章:不安と喧嘩と仲直り
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しおりを挟む食べたこともない美味しいご飯にすっかり満腹になって、食事会が散会になった後、私と先輩は一緒に夜道を歩いていた。
「おいしかったですね。あんな高そうなとこ、私だけじゃもう一生行けなさそう」
そう言ったとき、先輩が足を止める。私も足を止めて、先輩を見た。
「俺がいつだって連れてくよ」
「……いいですよ、もったいないし。普通のデートでいいです」
「普通って?」
「ほら、前のラーメン屋台とか」
「うん、あそこもいいよね」
先輩は言い、続けた。「でも、結婚したら、パーティーや会食の場面も増えると思うから」
その言葉に、自分の息が詰まったのが分かった。
やっぱり結婚の話が出ると、私は躊躇してしまう。手放しに、そうですね、なんて返せない。
そんな私を知ってか知らずか、先輩は私の唇を撫でた。
「みゆ、うちおいで。みゆが足りなかった」
「……今日は、そういうこと、できないですよ……」
実は今日は、そういうことができない日だ。そう言うと、先輩は、
「それだけが理由で一緒にいたいって言ってるわけじゃないよ」
そう言ってクスリと笑う。「まぁ、したいのは確かだけど」
(素直すぎやしませんか……?)
私は言葉につまった。こんなこともすべて、先輩はいつもまっすぐで……。
「ただ、一緒にいたいんだよ」
「……」
「あ、お腹痛くない? 温めるもの、うちにあったかなぁ。なかったら困るから買って行こうか」
先輩はそんなことを言って歩き出す。先輩って、なんでいつもこんなに優しいんだろう。
私だって、こうやって、ゆっくり普通に、先輩と過ごす時間が好き……。
結婚とか、子どもとか、そういうこと『抜き』に。
―――相手は柊みゆさんのみ。あなた以外は絶対に反応しないし、あなた以外と子作りをするつもりもない、と健人は言っているのです。
―――健人はね。『キミといる未来』以外の可能性を、1㎜も考えてもいないんだよ。
その時、社長と副社長の言葉が頭を回る。
お兄さんも、お父さんも結婚について賛成して後押ししてくれてるけど、私はまだその期待に応えられない。
私にとって、それはまだ、重すぎる。
そんなことを思う私が、今、先輩とただ一緒にいたいって思うのは、わがままなのかなぁ……。
そう思いだすと止まらなくなった。
こんな優しい相手なのに、私はまだ結婚や子どもの話は『重い』だなんて思ってるから。
決められている、期待されている、未来が重い。
私はきゅっと唇を噛む。
「私、先輩と別れた方がいいんですかね……」
思わず言っていた。「私は先輩とすぐに結婚できないです。だったら別れた方が先輩も次の相手探せるし。他の女性ならすぐに結婚して、子どもも作ってって思ってくれると思うし」
私はまだ迷ってる。先輩はいろいろな覚悟をもって私と結婚したいと、社長にまで言ってくれていたのに。私は……それに今も釣り合えていない。
そんな風に迷ってる私がずっと先輩の隣にいるのはおかしいのではないか。先輩に会って、二人きりになって、先輩からも『結婚』って言葉を聞いて、突然そんな思いが飛び出してきた。
そんな私を見て、先輩は不機嫌そうに眉を寄せた。
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