上 下
26 / 57
9章:彼の事情

9-2

しおりを挟む


「……お、鳳って、まさか鳳凰グループの鳳じゃないですよね⁉」

 そう、鳳とは、鳳凰グループの総帥の名字でもあり、ホウオウ社長も鳳で、鳳凰グループの会社は基本的に鳳一族が経営している。
 鳳家、だなんて一般の人からは聞かない名字だけど……。


「そうだよ。父はホウオウの社長だし、ホウオウ副社長の鳳一樹は俺の兄だ」
「だからあんなに仲良さそうに……」

 ふと最初の面接で、『健人』と副社長が先輩のことを呼び捨てにしていたのを思い出す。
 でも、よく考えてみると、私はあの時はそれどころじゃなかったからすっかり忘れていたのだ。

 それにしても、まさか親族だとは思わなかった……。先輩、名字も違うし。


 先輩は戸惑う私を見て苦笑すると、
「隠してたわけじゃないんだけど、言うタイミングもなくて」
と言い、続けた。「俺は今の社長の二番目の妻の子ども。ちなみに今は三番目の妻で本当の母じゃない。あと一番目の妻が一樹の母親」

 ちょっと待って混乱してきた。

 とりあえず、お父さまモテますね?
 社長ともなれば選び放題なのかもしれない……。ナンテヤツダ。うちの社長だけど。会ったこともないし、はっきり顔もわかんないけど。



「でも先輩だけ名字が……違うんですね?」
「俺は離婚した後、そのまま母親の旧姓に戻ったから羽柴なの。一樹は離婚後も父の家系が引き取った。長男だしね」

 それがいつのことなのかわからないけど、私が知っている先輩はすでに羽柴だった。

「全然……知りませんでした」
「高校の時は羽柴だったもんね」
先輩は少し表情を陰らすと、「母が亡くなって鳳家に出入りすることも増えたんだけど……。俺はね、父とはあまり仲良くはないんだ」
と言う。


 今は自分の母とは違う女性と結婚している父との関係と言うのも難しいんだろうな……。先輩は誰とでもうまく関係を築けると思っていたから意外ではあった。


「お兄さんとは……副社長とは、仲よさそうでしたよね?」
「うん、一樹のことは尊敬してる。底抜けにお人よしなとこも含めて」
「副社長って、お人よしなんですか」
私は思わず笑う。

「一樹って、昔から動物に好かれるんだよ。何度も、猫とか犬とか、勝手に一樹についてきてたことあったんだよね。今でも時々あるよ」
 それを想像するとまた笑った。先輩はそんな私の髪を何度も撫でる。


「それに、俺が弁護士になれたのも一樹のおかげだから」
「そうなんですか?」
「これでも一応、鳳家の……父の血がしっかり入っているからね。鳳凰グループへ入る予定で、大学も元々は経営を学ぶ予定だったんだ。でも、ほら、みゆに飛び蹴りされて進路を変えたでしょ? その時、もちろん父は大反対でね」

 突然飛び蹴りのワードが出てきて、私は、う……と言葉に詰まる。
 まさかお父様にまでご迷惑をおかけする結果になっていようとは……。そこは全く想像もしていなかった。そもそも先輩が鳳家の次男なんて全く知らなかったし!


「……とにかく先のことは分からないけど、俺が弁護士になることは、鳳凰グループにとってもいいことだって、一樹が父を説得してくれたんだ。それに鳳凰は自分がつぐし、問題ないでしょって」


 先輩は何かを思い出したようにきゅ、と唇を噛むと、
「だから、俺は、一樹が困ったときは助けたいって思ってるんだ」
とはっきりと言った。


 その先輩の決意している顔を見て、私は、先輩がまた遠い世界の人のように思えてしまったのだ。高校の時も先輩は十分に遠い存在だった。今もそういう面はある。

 でも、こうやって先輩が自分に近づいてきてくれて、身体を重ねて……。
 私も少しずつだが、先輩をただの男の人として接することもできるようになってきていた。でも……。

 大きなグループ会社の会長の孫で、今の会社の社長の息子。
 もし他のだれかの話なら『すごいなぁ』と素直に思ったのかもしれない。でも先輩がそうだなんて……私には『悪い事実』の分類にしかならない。



「みゆ?」
 先輩は不安そうな目をすると、私の頬を撫でる。

「あ、す、すみません。世界が違いすぎて。今頃驚きが来たというか……」
「ごめんね。これ聞いたらみゆは俺と付き合う事にしり込みするかなぁって思ったんだ」

 先輩は、また、ごめん、とつぶやいた。
 その様子に私は眉を寄せる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

処理中です...