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9章:彼の事情

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 深夜に目が覚めて、目の前を見たら裸の先輩の胸板があって卒倒しそうになったので、静かにグルリと反対方向を向いた。

「みゆ? 起きたの?」
「こ、こっち見ないで」
「それは聞けないな」

 先輩が後ろからクスクス笑って、髪に、背中に、軽いキスを落とす。くすぐったくて身をよじると、意地悪するみたいに余計にそうされた。

「お願いだから、やめてください」
「じゃ、こっち向いて」
「やだ」
「いつになったら二人の時くらい素直になってくれるんだろうね」

 私は十分素直だ。
 だって今回、私は自分から先輩に抱き着いた気がする。そのあとも何度も、だ。これ以上どうすればいいのだろうか。聞きたいけど、聞いたらあまりいい結果にならない気もして、私は口を噤んだ。


 すると先輩は後ろから、私の身体をぎゅうと抱きしめると、
「あのね、みゆ。そのままでいいから聞いてくれるかな。みゆに言っておきたいことがあるんだ」
と優しい声で言った。

 その言葉になんだかドキリとする。
 出会ってから先輩には驚かされっぱなしだから。

 飛び蹴り事件から12年不能とか、あれ以上に驚くことはないだろうけど……。
 そんなことを思って、なんですか? と問うた。



「実は俺、鳳(おおとり)家の次男なんだ」
 先輩はさらりと言う。

 あまりにも普通に告げられて聞き流しそうになったけど……。

「そうなんですか。鳳家の……」
「うん」
「お、鳳⁉」

 あまりに驚いて飛び起きてしまった。
 あわててシーツを手繰り寄せ、身体に巻き付ける。すると先輩も起き上がり、まっすぐ私の顔を見てにこりと笑って、そうだよ、と私の髪を撫でた。


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