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4章:あの事件ととんでもない告白

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「……はい?」


「まぁ、つまり不能」
「ふ、ふのう……」

 私は繰り返す。すると先輩は楽しそうに頷いた。
 不能ってあれですよね。あれがアレできないあれですよね……。

 あれって言いすぎて私もよくわかっていないけど……。
 完全に戸惑う私に、先輩は続ける。


「で、うちはね……。まぁ、ちょっと色々あって、俺には子どもが必要でさ。あ、もちろん今すぐじゃないよ? 将来的に、って話」
「……子ども」

 自然にごくりと唾をのむ。



「なのに俺はまったく女性に反応しなくなった。心理カウンセリングとか病院とか、怪しげなおまじないとか、催眠とかね。とにかくこの12年間、ありとあらゆるものを試したわけ。でもだめだった」
「そ、そうなのですか……」

 私が言うと、場がしーんと静まる。
 やっぱそれって私の『飛び蹴り』が原因ってことだよね……。

 女の子、しかも後輩に飛び蹴りされて入院したことが、先輩の心の傷として残り、だから、あれがアレできないのだろうか……? ってそもそも、私にもそのあたりはよくわからないけど……。



「でもね、あの日、ホウオウビルで、みゆに会って」
 先輩は私の目を捉える。「みゆにすごく欲情した自分に気づいた」

 そんなことをはっきり言われて、私は戸惑うしかない。
 そもそも今、私は、一体何の告白を聞いているのだろうか? 不思議で仕方ない。


「……え、ええっと……」

 でもつまりは、私に反応したってこと?
 アレできない、あれが。



「それでも、やっぱり、みゆ以外の女性には反応しないんだよ。みゆの匂いとか、声とか、その中でも、特に涙目で睨んでくる目とか……反応すごくてさ」

 そんなこと真顔で言わないでよぅ!
 しかも内容は残念でも、顔面はイケメンだ……! 超絶イケメンだ……!


「私と会ってから他の女性は……⁉」
「一度、高級クラブの女性に接近してもらったのだけど」
「で……?」
「だめだった」

 先輩はあっさり言う。

「……お、おう……」

 私は戸惑いながら頷く。なんだか頭痛くなってきた……。


「でも、夜に家で、みゆのあの目を想像してたら……」
「ちょ、もう、もう、やめてください……! わかりましたから!」

 私は慌てて話をうち切った。どうしていいかわからないけど、とんでもない話なのは間違いない。



「とにかく俺はみゆにしか反応しない身体になったんだ」
「なんですか、その話。ファンタジーですか……」

 私は思わずツッコむ。いや、ほんと、そんなことある?
 ファンタジーとしか言いようがない。

 でも、もし本当だったら……それは大変なことかもしれない。
 だってさっき、『子どもが必要だ』って言ってたから……。ってそれも理由はよくわからないけど。



 私が足を引くと、先輩は笑って私の髪を撫でる。

「でも、みゆもまだ俺のこと、好きだよね?」
「ひっ……」
 私はぶんぶんと首を横に振った。「き、嫌いですって! 金曜も言いましたよね⁉」

「本当は最後まで試したいんだけど」
「絶対いやです!」

 泣きそうに、いや、泣きながら叫ぶ。


(なんでそんなお試しで、先輩に私のハジメテを捧げなきゃなんないのよーーー!)


 先輩は不思議そうに首をかしげると、

「でもそもそもこの現象の原因って、『みゆの飛び蹴り』だよね?」
「関係あります? ほんとに? ほんとに飛び蹴り関係あります⁉」
「そうに決まってるでしょう」

 先輩はやけにきっぱりと言った。なぜ急に強気になるんだ。
 そう思った瞬間、腕を引かれて、先輩の胸の中に押し込められる。

 こんな変な話、誰が信じるのだろう。
 でも、先輩が嘘を言っているようにも見えなくて……私はその場に固まっていた。



「だから、みゆ。諦めて俺と結婚してくれない?」


(のぉぉおおおおおおおーーーーーーーー‼)

 その時、その場で大声で叫ばなかったことだけは、その日の自分をほめてやりたいと今でも思ってる。


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