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4章:あの事件ととんでもない告白
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―――あの時。
最後の大会が終わって先輩は引退。毎日来なくなった先輩に私は心底ほっとしていた。
引退しても、先輩の人気ぶりはやっぱりすごくて、いつだって誰か女子に呼び出されては、告白されているようだった。多分周りも玉砕覚悟で、卒業の近い先輩にどうにか思いを伝えたかったのだろう。
私はというと、できればこのまま何もなく終わりたかった。
だってもし卒業間近で先輩と何か変にうわさされることがあれば、先輩が卒業した後も、みんなに仲間外れにされる可能性だって大いにあるのだ。しかも自分が卒業するまで二年間もだ。
そうなると、もう普通の高校生活は望めない。
時々、廊下を歩く先輩と目が合ったような気もしていたけど、気のせい、気のせい、気のせい、と三回唱えて、見ないふりをした。そして、そのうち、3年生に遭わないようなルートを選んで通るようになっていた。
そんなある日の放課後。
部活に遅れそうになり抜け道を走っていると、急に手をひかれる。
驚いて、目を見開くと、その相手が羽柴先輩で、さらに目を見開くことになる。
「みゆ、ちょっといい?」
「……」
もう放課後で部活も始まる時間。ここは抜け道。
でも人が通らない保証はない。私の胸の音は大きく鳴っていた。
「俺のこと、避けてる? どうして?」
先輩は少し不機嫌そうな声でそんなことを言う。私は思わず固まった。
避けてはいた。もちろん、避けていた。そんなの当たり前だ。
押し黙っていると、先輩の手がするりと頬を撫でる。
「っ!」
私が身体をびくりと震わして一歩引くと、背中に校舎の壁が当たった。逃げ道はない。そのとき、先輩の熱い手が私の腕を掴んだ。
「ごめん、なんか、俺さ……、みゆのこと好きすぎて。全然何も手につかなくなって、今ちょっと変で……」
それは突然の告白だった。私はパニックになる。
「な、ななななな何言って……⁉」
「みゆは俺のこと、どう思ってる?」
「私は先輩のこと……!」
言いかけた時、近くで女子の声が聞こえた。すぐさまそれが特に先輩のことが好きだと公言している女子だと悟った。
『さっきここで羽柴先輩見かけたんだけど……』、とそんな内容だったと思う。
私は口を閉じて、自分の口を手でふさぐ。
足音は近くまで来ていて、私は、胸がドキドキしていた。
絶対見つかりたくない。もし、先輩と一緒のところ見つかったら……!
「やっぱり、みゆは、最後までした方が自分の気持ちを素直に言うのかなぁ……」
先輩はそうつぶやくと、私の腕を掴む手に、力を加えた。そんなことをされて、さらに胸のドキドキは収まらなくなった。顔も熱いし、足も震えてる。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)
全然わからない。どうしていいか、何も分からない。
なんで私がこんな目に遭うのよ……!
泣きそうになって先輩を見あげて睨みつけると、先輩は
「何その目……。反則だよ」
と、また熱い目で私の目を捉え、そして耳朶に唇を這わした。
「ひゃぁっ……!」
ドクンと大きく胸が鳴る。
目の前の羽柴先輩の目が、顔が、完全に男の人に見えた。
と同時に、羽柴先輩の手が制服のスカートの上から、私の足を撫でる。身体がびくん、と跳ねると、羽柴先輩は楽しそうに笑った。
貞操の危機を脳が察知する。むりだ。外だぞ。いや、今それは関係ない!
顔が熱くなって背中に汗が流れる。でも身体はピクリとも動かない。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう! どうしたらいい……⁉)
「みゆ」
先輩の手がスカートに入り込み、直接足を触って、そのまま顔が近づいてくる。と、同時に遠くから、先ほどの女の子の足音も聞こえて、近づいてきた気がした。
私は完全にパニックになって、無理矢理に先輩の腕をほどくと、
―――先輩に見事なまでの飛び蹴りを食らわせてしまったのだ。
しかも、ちょうど後ろにあった木に、先輩はそのまま背中を強打してしまい、先輩は顔をしかめる。
その時、私は、一緒にいたと知られたどうしよう! 訴えられたらどうしよう! 刑事の娘がこんなことやったら人生詰んだ……! と完全にパニック状態。もう普通の高校生活には戻れない。
心中は、完全に犯罪者のそれだ。
しかし、先輩はというと、自分のせいだから気にしないで早く行って、と私に告げると、パニックで泣く私をその場から離れさせた。それからも、自分の不注意での怪我ということで押し通していた、らしい。
先輩はそのまま入院。なんと全治3か月。私は何度も謝りに行きたいと思って病院まで行ったのだけど、あの日の先輩を思い出すと、怖くて直接謝りに行けなかった。
さらにその後、先輩はと言うと、第一志望ではない大学に行った、と風のうわさで聞いた。あの長い入院がそうさせたのだろう、といううわさも一気に校内を駆け巡った。
そして先輩は卒業。意を決して先輩に会いに行ったとき、先輩はもう大学で一人暮らしを始め、以前の家には住んでいなかった。
そこで先輩の居場所を誰かに聞けばよかったのに、私は周りの目を気にしてそれも聞けず、そのまま12年間、その事件を心の中で引きずり続けることとなったのだ。
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