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3章:重過ぎるプレゼントと二度目のキス
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しおりを挟む「横に座っても?」
歓迎会も後半に差し掛かり、そう言われて顔を上げるとやっぱり羽柴先輩だった。
「……」
私が返事できないでいると、羽柴先輩は勝手に私の左隣に座り込む。
私はすぐに先ほど羽柴先輩の隣にいた宮坂さんの席に目を向けると、宮坂さんはちょうどお手洗いにか、席を立ったところのようだった。
「あの、先ほど頼んだこと、了解されたんですよね?」
「普通、歓迎会の主役と話さないなんてことはないでしょ。話さないほうが意識しているみたいじゃない」
「そうかもしれませんが、すぐにあちらに戻ってください」
少し口調が厳しくなったのは酔いのせいもある。先ほどからやさぐれている私のお酒のペースは非常に速い。やさぐれている理由はこの先輩。
この先輩の言動すべてが、全くもって意味が分からないからだ。
先輩の予定を調べていたときに偶然知ったことだが、高校時代からさらに輪をかけて、羽柴健人その人は、日本中にその人気ぶりをひろげていた。yahoo検索結果に描かれている彼は、どれもこれも、品行方正・すばらしい人間のように描かれているのだ。
また若くして自分で法律事務所を立ち上げ、相談件数も増え、優秀な若い弁護士を一気に5名もスタッフとして増やしている。それに伴い、相談件数も、相談内容も大規模化しているとのこと。業績まで完全に軌道に乗っているのだ。ほんとにナンテヤツダ。
しかも、そんな人が
―――やっぱり俺は、みゆしかダメみたい。
なんであんなことした私にあんな告白じみたこと……。
私はこれまで絶対に彼に恨まれていると思ってた。
でも、なんだか思ってたものと違う気がする。だからこそ訳が分からない。つい、そのまま日本酒をぐいっと煽る。
ビールごときではこのモヤモヤは晴れない。あ、頭がぐらぐらする。二日酔いかな、と思ったものの、明日は土曜。とにかく今日は早めに切り抜けよう。
そんなことを考えていた時、突然、羽柴先輩に左手をとられ、羽柴先輩の手とともにテーブルの下に入れられる。
強引に指を絡められ、思わず手を振りほどこうとするが、まったく手は動かない。むしろ動かそうとすればするほど、酷く固く手はつながれた。
先輩の手の熱に浮かされ、頭がぼんやりとする。今、顔が絶対赤い。これはお酒のせい、お酒のせい、お酒のせい、と三回唱えた。
「離してください」
周りに聞こえないように呟いて、睨むと
「あ、そうだ。念のため、これ渡しとくね。俺の名刺。何かあれば携帯が繋がるから」
ねじ込まれるように、名刺をポケットに入れられた。うん? まぁ、それは確かにこれから仕事で必要になるだろうと、私はなんだか腑に落ちないながら、突き返すことはしなかった。
その時、宮坂さんが帰ってきた。私が慌てて思いっきり手を振ると、やっと先輩の手が離れる。
宮坂さんの表情が不審そうに曇ったのを察知すると、私は立ち上がり、薄手のコートとバッグをすぐに手に取った。
「すみません、私ちょっと酔いすぎたみたいで……! もう帰ります!」
「え、大丈夫?」
部長が言う。
「心配だし、送るよ」
続いて、先輩がそんなことを言い出す。私は全力で首を横に振った。
「いえ! 結構です! 宮坂さん、すみません。後は頼んでしまって大丈夫ですか? 会費は……」
「歓迎会なんだからもちろん必要ないわ。すぐにタクシー呼ぶわね」
宮坂さんは今までにないくらいご機嫌でそう返事してくれた。
(良かった……)
たぶん宮坂さんは、先輩と一緒にいられる確率が増えることに喜んでいるのだろう。もしかしたらこれから二人で夜の街に繰り出すかもしれない。さらにもしかしたら、キスとか、それ以上とか、するかもしれない……。そう思って一度足を止めたが、私は首を振る。
どちらにしたって私には関係のないことだ。
そしてそのまま、宮坂さんの呼んでくれたタクシーにすぐさま乗り込み、まっすぐ帰宅したのだった。
家に帰ってみると、父は、今日は泊まり勤務で誰もいなかった。家は真っ暗だ。
家に入って電気をつけると、古い床だけが、ぎい、と私を出迎えた。
はぁ、と小さくため息をつき、私は先ほどのことを反芻していた。
今頃二人はどうしているだろう。どうもこうも、すきなようにやればいいけど……。
私には関係ないんだから……。
それにしても先輩、なんであんなとこで、手なんて繋いだのよ……。
奇妙な告白も相まって、手のぬくもりを思い出すと、私の心臓は限界まで脈打っていた。そのせいで間違いなく変な気分になってくる。
私はぼんやりとつながれていた手を見る。
そしてそれを二度見した。
(おい、これ、なんだーーーーーーー⁉)
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