2 / 57
1章:最悪な再会とあの日の続き
1-2
しおりを挟む次の週から早速鳳凰グループの人事面談が始まった。もともとわが社の会社規模は100名。20名ごとに5日に分けて一気に面談するらしい。私と成美は4日目の最後の方。
東京中心部にある鳳凰グループ本社ビル32階の会議室で面談は行われる予定だ。
その日、私と成美はそのバカ高いビルを見上げて、ほぅ、とため息を漏らす。
面談は私の前に成美だった。成美は早々に彼氏との結婚が決まり、依願退職をすることとなっていた。そして笹井部長については、うわさで鳳凰グループの別会社に行くことを耳にした。
でもだからといって、これから自分だけ転職活動するつもりもなかった。他の社員も半数はホウオウに行くと聞いていたので、私もとりあえずこの流れに身を任してみよう、と決断したところだったのだ。
成美は依願退職希望ということもあるのか、10分もかからず面談を終え、部屋から出てきた。そして、興奮気味に
「すっごいイケメン副社長と弁護士がいたよ!」
と言い出したのだ。
「弁護士? 弁護士まで同席してるの?」
弁護士、と聞いて、私はなんだか落ち着かない。それは、警察が近くを通ると悪いことをしていないのになんとなく気まずいアノ空気に似ているからだろう。
「何かあった時のためでしょう。こういう面談って揉めるだろうし」
「……そう」
「あんなカッコイイ人が副社長と顧問弁護士でいるなら、会社辞める判断誤ったかなぁ」
「じゃあ、今からでも撤回してよ」
「イケメンだけじゃ無理無理」
成美はあっさりそんなことを言う。
くそう、役にたたないイケメンたちだな。成美を引き留めるくらいの顔面してなさいよ……と心の中でこっそり悪態をついて、私は会議室のドアを開けた。
「失礼いたします。総務部、柊みゆと申します」
ぺこりと頭を下げて部屋に入ると、3名の男性が目の前の机に並んで座っていた。
一人は笹井部長とあまり変わらないくらいの年齢のホウオウ総務部長、そして、きっと、もう一人の若そうな男性が先ほど成美がイケメンだと言っていた鳳凰グループ副社長で、もう一人弁護士バッチをつけてる人が……。
「羽柴……先輩?」
私はその弁護士を見て、思わずつぶやいていた。
黒髪に銀縁眼鏡の下の切れ長の目元。身長は高校の時からすでに180はあったけど、今はさらに少しだけ大きく見える。
(まさか……。人違い、だよね?)
そう思ったとき、
「みゆ……」
と座っていた男性弁護士がこちらを見て言う。
(やっぱり羽柴先輩じゃないかーーー!)
私が思わず青ざめると、羽柴先輩の横にいた若い副社長が、え、二人知り合い? と楽しそうに笑った。羽柴先輩は、あぁ、と低い声で頷く。
その声に、ひゅっ、と小さく息を吸い込む。それはまさしく羽柴先輩の声だったから。
突然のイレギュラーに私の頭は混乱に混乱を極めた。
(落ち着け……! 落ち着け、私!)
私は叫びだしそうになりながら、ニコリと平和な笑顔を装う。もうシャツの下は汗だくだし、なんなら掌も汗だくだ。今すぐ走って帰って、シャワー浴びて、すべて忘れたい……!
「どうぞ、座って」
部長らしき人が言う。「僕はホウオウ総務部長の木村と言います。君はたしか継続雇用希望だったね。これまでの仕事内容も見たよ。着実に仕事している姿勢が今の上司からも評価されていると聞いてる。僕としてもそう言う部下が欲しいんだ。多分総務部にきてもらうことになる。よろしくね」
と優しい声で言った。優しそうな人でほっと一安心するはず……だったのだが、残念ながら先ほどから私の頭は完全にフリーズしている。
「あ、あの……」
「健人の知り合いなら間違いないね。よろしく、柊みゆさん」
そう言って副社長まで笑う。健人って、羽柴先輩の下の名前……。
完全に固まる私をよそに、私の雇用継続はどうやら無事に決定したらしい。
(辞めるって言うなら……さっきだった……)
私は部屋を出た瞬間、その場に崩れ落ちた。
いざと言うときの自分の機転のきかなさに泣けてくる。あとでいろいろ反省しても、いざその場に立つとすぐにその判断がうまくできないのだ。
しかし、どれもこれも、羽柴先輩が悪い。
なんでこんなとこにいるのよ……。
って、羽柴先輩が顧問弁護士ってことだよね。でも顧問弁護士なんて、普通はあまり社員と関係ないよね……?
一縷の望みをそんなことに託しながら私はとぼとぼとエレベータまで向かった。
それに辞めるって言うこと自体は、いつでもできるはずだ。
そんなことを思いながら、やってきたエレベータに乗りこみ、1階のボタンを押す。次の瞬間、スーツの男性がエレベータに強引に乗り込んできた。
それが羽柴先輩だと気づくと、私の息は止まり、身体は固まった。そして寒くもないのに、身体はがたがたと震えた。
3
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
純真~こじらせ初恋の攻略法~
伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。
未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。
この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。
いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。
それなのに。
どうして今さら再会してしまったのだろう。
どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。
幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる