試情のΩは番えない

metta

文字の大きさ
上 下
25 / 31

25 初心と純熟

しおりを挟む
 
 男の性、特にアルファ性であれば、弱った時ほど子孫を残そうという本能が働くが、オメガは逆に命を守ろうと発情が弱まる傾向にある。そのような状態で孕んでも子を産めないからだ。
 だからかは分からないが、フィアルカの発情ヒートは思ったよりもなかなか来ず、そのためリオルドの告白以降は互いにふわふわと落ち着かない日々を過ごしていた。

 介助については告白を境にリオルドが妙に照れてしまい、ちょうどよかったといえばちょうどよかったのだが、このままで大丈夫なのだろうかという不安がある。

「今まで閨事を避け続けてきた弊害でしょう。自業自得です」
「それはご病気もありましたし、仕方がないのでは……」
「結果論としてはそうですが、それを加味しても、です」
「一応話はしてみたのですが……」

 
 +++


「あの……経験はありませんが、私の方が年嵩ですし、そこまで気にしていただかなくても」
「……お互い経験がないのであれば、どう考えても負担がかかるのはお前なんだ。私の方が」
「でしたら、少し練習でもしますか……?」
「練習……いや……」


 +++


 自慰の際も意外と張形挿入などは難しく、練習しないと上手くできなかった記憶がある。なのでそう持ちかけてみたのだが、それ以降リオルドはむっつりと黙り込んでしまった。

「――といった感じで、少し怒らせてしまいまして」
「いや怒っているというより……これは、手を貸すべきなのでしょうかね……」

 あまり表情を崩さないオルニスが、何ともいえない困った顔をしている。正直フィアルカも困っているし、きっとリオルドも困っている。

「――とにかく、体調はもう問題ないでしょう。あとは体力が戻ればいつ発情が起こってもおかしくないかと」
「はい」
「なので、事前打ち合わせをしますかね……」

 なぜだかとても疲れた様子で溜め息を吐くオルニスだが、それは必要事項である。よろしくお願いしますと頭を下げれば、オルニスはまた何ともいえない顔をしていた。

「フィアルカの体質を鑑みて、最初はリオルド様には枷をつけていただきます。私がいれば私が枷をつけて外しますが、不在の時はリオルド様がご自身で連絡役に告げてから枷をつけ、フィアルカの元へ行ってください」
「……分かった」
「フィアルカは鍵の在り処を絶対に忘れないように。あと外す練習をしておくように」
「はい」
「最初が上手くいけば、出歯亀のような真似はしませんので、頑張ってください」
「何なんだこれは……」
「申し訳ありません……」

 枷をつけたりつけられたりするリオルドに、それを外すフィアルカ。とても閨準備のようには思えないが、ある意味この練習のおかげで気が抜けたのか、リオルドの態度も普通に戻った。

 その数日後。
 朝目が覚めた時点で既に様子がおかしかった。

 今までは発情期に入ってすぐなら何とか動き、独り籠る準備できたが、今回はいつもより辛いものになるだろうという前情報どおり、そんな余裕は一切なかった。何とか枷の鍵だけは持ったが、それ以上頭が熱に侵され働かない。
 匂いのよすがを辿ろう辿ろうとして、フィアルカはリオルドが触れたものを次々と手繰り寄せる。匂いはほとんどないが、ないよりマシだとそれら引っ掴んで包まり、邪魔な衣服を脱いでいく。下着は既に濡れており、露出した先から性器はひくりと震えるごとに硬さを増して、丸い先端から次々と蜜を垂らしては、後孔までを濡らしていた。

「……すごいな……匂いですぐ分かった」
「りおるどさま」
「これほどのものを、押さえつけていたのか」

 いつの間に部屋に来たのだろう。寝台上で敷布や肩掛けに包まるフィアルカに、リオルドが近づく。手を縛られ体重が1点に掛かったからか、寝台が重く軋んだ。フィアルカは恐る恐る小さな巣から顔を出して近づき、リオルドの目を見る。そこに在ったのは今までフィアルカが見てきたアルファ達のように、敵意を浮かべたものでも怯えを浮かべたものでもない。ただひたすらに目の前のオメガを欲しがる飢えた獣の目だ。
 普通ならば怖くもあるそれが、フィアルカは嬉しかった。その目を見た瞬間、背筋がぞわぞわとして、胎の奥から後ろの孔が一気に潤んだ。

「……触りたい……」

 そう希う獣に、胎が悦んでいる。きっと自分も目の前のアルファを欲しがる獣の目をしているだろう。急く気持ちで手が震え、なかなか枷を外すことができない。獰猛な獣を解き放つ行為であるのに、まるで宝箱を開けるような、贈り物の絹紐リボンを解く子どものような気分だった。
 自由になったリオルドは真っ先にフィアルカを抱き寄せて膝に乗せ、口づけをした。こんなに獣の目をしているのに、触れるような優しい口づけだった。

 発情期に自分を慰める自慰は知っていても、口づけは相手がいないとできない。知識でしか知らない行為に応え方が分からず、ただ唇を押し付け返すだけになってしまう。
 何度か繰り返すうちに、やがて食らうようなものに変わり、開けろと言わんばかりにフィアルカの唇をリオルドの舌先がなぞる。分からないまま口を開けば、舌がそのまま入り込み、咥内でフィアルカの舌を捕まえようとしている。その動きに応えようと動きを追えば、くちゅくちゅと濡れた音が直接頭に響く。耳が犯されているように、ただ気持ち良いという感覚だけになっていく。息の仕方を忘れてしまい、ぼうっとして視界が熱で滲む。
 気づけば縋りつくようにフィアルカは手を伸ばしていて、リオルドはそれを取って自らの首に回した。今まで取られることなく払われていたそれを取ってくれた。熱くなった肌の温度がじわりじわりと互いを行き来している
 それだけでもう充分なのに、匂いや胎は図々しく、もっともっとと叫んでいる。

 そんなフィアルカをリオルドは寝台にそっと押し倒し、むしり取るように自分の服を脱ぎ捨てた。露わになったのは、筋肉のつき始めたしなやかな瑞々しい身体に、新しい薔薇色の胸の傷。
 自分の古く薄くなった傷と違うが、同じものがあるのはなんだか嬉しいようないけないものを見ているような気がする。けれど目が離せない。
 そこ釘付けになっている間に、リオルドはすでに引っかかっているだけだったフィアルカの服を剥いた。

「あ……」

 成長途中の身体は瑞々しく、立派だ。対照的に自分の半端に貧相な身体がフィアルカは恥ずかしくなった。

「隠すな」

 手で隠した身体を力づくで暴かれ、露わになったフィアルカの胸――白くなった胸の傷。リオルドはまるで臣下が主にするような恭しい口づけを落せば、そこから身体中を駆け巡り、さらに身体が熱くなる。
 実もつかない徒花のはずだったのに、いまやどこもかしこ食べて欲しいと熟れていくかのようだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~

仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」 アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。 政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。 その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。 しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。 何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。 一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。 昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!

MEIKO
BL
本編完結しています。Ωの涼はある日、政略結婚の相手のα夫の直哉の浮気現場を目撃してしまう。形だけの夫婦だったけれど自分だけは愛していた┉。夫の裏切りに傷付き、そして別れを決意する。あなたの妻(Ω)辞めます!  すれ違い夫婦&オメガバース恋愛。 ※少々独自のオメガバース設定あります (R18対象話には*マーク付けますのでお気を付け下さい。)

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...