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25 初心と純熟
しおりを挟む男の性、特にアルファ性であれば、弱った時ほど子孫を残そうという本能が働くが、オメガは逆に命を守ろうと発情が弱まる傾向にある。そのような状態で孕んでも子を産めないからだ。
だからかは分からないが、フィアルカの発情は思ったよりもなかなか来ず、そのためリオルドの告白以降は互いにふわふわと落ち着かない日々を過ごしていた。
介助については告白を境にリオルドが妙に照れてしまい、ちょうどよかったといえばちょうどよかったのだが、このままで大丈夫なのだろうかという不安がある。
「今まで閨事を避け続けてきた弊害でしょう。自業自得です」
「それはご病気もありましたし、仕方がないのでは……」
「結果論としてはそうですが、それを加味しても、です」
「一応話はしてみたのですが……」
+++
「あの……経験はありませんが、私の方が年嵩ですし、そこまで気にしていただかなくても」
「……お互い経験がないのであれば、どう考えても負担がかかるのはお前なんだ。私の方が」
「でしたら、少し練習でもしますか……?」
「練習……いや……」
+++
自慰の際も意外と張形挿入などは難しく、練習しないと上手くできなかった記憶がある。なのでそう持ちかけてみたのだが、それ以降リオルドはむっつりと黙り込んでしまった。
「――といった感じで、少し怒らせてしまいまして」
「いや怒っているというより……これは、手を貸すべきなのでしょうかね……」
あまり表情を崩さないオルニスが、何ともいえない困った顔をしている。正直フィアルカも困っているし、きっとリオルドも困っている。
「――とにかく、体調はもう問題ないでしょう。あとは体力が戻ればいつ発情が起こってもおかしくないかと」
「はい」
「なので、事前打ち合わせをしますかね……」
なぜだかとても疲れた様子で溜め息を吐くオルニスだが、それは必要事項である。よろしくお願いしますと頭を下げれば、オルニスはまた何ともいえない顔をしていた。
「フィアルカの体質を鑑みて、最初はリオルド様には枷をつけていただきます。私がいれば私が枷をつけて外しますが、不在の時はリオルド様がご自身で連絡役に告げてから枷をつけ、フィアルカの元へ行ってください」
「……分かった」
「フィアルカは鍵の在り処を絶対に忘れないように。あと外す練習をしておくように」
「はい」
「最初が上手くいけば、出歯亀のような真似はしませんので、頑張ってください」
「何なんだこれは……」
「申し訳ありません……」
枷をつけたりつけられたりするリオルドに、それを外すフィアルカ。とても閨準備のようには思えないが、ある意味この練習のおかげで気が抜けたのか、リオルドの態度も普通に戻った。
その数日後。
朝目が覚めた時点で既に様子がおかしかった。
今までは発情期に入ってすぐなら何とか動き、独り籠る準備できたが、今回はいつもより辛いものになるだろうという前情報どおり、そんな余裕は一切なかった。何とか枷の鍵だけは持ったが、それ以上頭が熱に侵され働かない。
匂いのよすがを辿ろう辿ろうとして、フィアルカはリオルドが触れたものを次々と手繰り寄せる。匂いはほとんどないが、ないよりマシだとそれら引っ掴んで包まり、邪魔な衣服を脱いでいく。下着は既に濡れており、露出した先から性器はひくりと震えるごとに硬さを増して、丸い先端から次々と蜜を垂らしては、後孔までを濡らしていた。
「……すごいな……匂いですぐ分かった」
「りおるどさま」
「これほどのものを、押さえつけていたのか」
いつの間に部屋に来たのだろう。寝台上で敷布や肩掛けに包まるフィアルカに、リオルドが近づく。手を縛られ体重が1点に掛かったからか、寝台が重く軋んだ。フィアルカは恐る恐る小さな巣から顔を出して近づき、リオルドの目を見る。そこに在ったのは今までフィアルカが見てきたアルファ達のように、敵意を浮かべたものでも怯えを浮かべたものでもない。ただひたすらに目の前のオメガを欲しがる飢えた獣の目だ。
普通ならば怖くもあるそれが、フィアルカは嬉しかった。その目を見た瞬間、背筋がぞわぞわとして、胎の奥から後ろの孔が一気に潤んだ。
「……触りたい……」
そう希う獣に、胎が悦んでいる。きっと自分も目の前のアルファを欲しがる獣の目をしているだろう。急く気持ちで手が震え、なかなか枷を外すことができない。獰猛な獣を解き放つ行為であるのに、まるで宝箱を開けるような、贈り物の絹紐を解く子どものような気分だった。
自由になったリオルドは真っ先にフィアルカを抱き寄せて膝に乗せ、口づけをした。こんなに獣の目をしているのに、触れるような優しい口づけだった。
発情期に自分を慰める自慰は知っていても、口づけは相手がいないとできない。知識でしか知らない行為に応え方が分からず、ただ唇を押し付け返すだけになってしまう。
何度か繰り返すうちに、やがて食らうようなものに変わり、開けろと言わんばかりにフィアルカの唇をリオルドの舌先がなぞる。分からないまま口を開けば、舌がそのまま入り込み、咥内でフィアルカの舌を捕まえようとしている。その動きに応えようと動きを追えば、くちゅくちゅと濡れた音が直接頭に響く。耳が犯されているように、ただ気持ち良いという感覚だけになっていく。息の仕方を忘れてしまい、ぼうっとして視界が熱で滲む。
気づけば縋りつくようにフィアルカは手を伸ばしていて、リオルドはそれを取って自らの首に回した。今まで取られることなく払われていたそれを取ってくれた。熱くなった肌の温度がじわりじわりと互いを行き来している
それだけでもう充分なのに、匂いや胎は図々しく、もっともっとと叫んでいる。
そんなフィアルカをリオルドは寝台にそっと押し倒し、むしり取るように自分の服を脱ぎ捨てた。露わになったのは、筋肉のつき始めたしなやかな瑞々しい身体に、新しい薔薇色の胸の傷。
自分の古く薄くなった傷と違うが、同じものがあるのはなんだか嬉しいようないけないものを見ているような気がする。けれど目が離せない。
そこ釘付けになっている間に、リオルドはすでに引っかかっているだけだったフィアルカの服を剥いた。
「あ……」
成長途中の身体は瑞々しく、立派だ。対照的に自分の半端に貧相な身体がフィアルカは恥ずかしくなった。
「隠すな」
手で隠した身体を力づくで暴かれ、露わになったフィアルカの胸――白くなった胸の傷。リオルドはまるで臣下が主にするような恭しい口づけを落せば、そこから身体中を駆け巡り、さらに身体が熱くなる。
実もつかない徒花のはずだったのに、いまやどこもかしこ食べて欲しいと熟れていくかのようだった。
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