5 / 5
5 試情のアルファ
しおりを挟む「ここの娼館で飼われているアルファは、威圧や発情を自分の意思で起こせるほどのアルファでね。その特性を利用して、薬に頼らずオメガを発情させるんだ。便宜上、"試情のアルファ"って呼んでる」
「飼われ……? なぜそれほどのアルファの方が」
「借金とか、色々、諸々、ね」
「僕も詳しくは聞いていないんだ」と、トラヴィスは曖昧に笑っている。
「知らなくていい」というよりも、「知らない方がいい」と主にも言われ、少し怖くなったフィアルカはすぐに疑問を引っ込めた。
「発情不全の治療のためにその子を借りることも考えたことはあるんだけど、万が一の事故の可能性もあるし、相手のアルファの本能による拒否が強い。その点、君ならオメガだし、その上相手のアルファと事故で番になってしまう可能性もかなり低い」
「なるほど……」
フィアルカには発情を抑える薬は効かないが、発情を誘う薬はそれなりに効く。試情馬ならぬ試情のアルファ、もとい試情のオメガになれということだ。
「あと、一応この試情のアルファの発情が、君に効くかどうかも試しておきたくて」
「はい」
「じゃあ、そろそろ行こうかね」
こっちだよ、と主に案内された場所には、すでに何人かの娼婦と男娼が待機していた。みな煌びやかな薄衣を纏い、様々美しいには変わりないが、慣れた風に寛ぐ者と、売られて日が浅いのか、明らかに慣れておらず怯えている者がいた。
フィアルカ達が部屋に入ってきたのに気づいて、慣れた風な者はしなを作って笑顔で手を振ってくるが、怯えている者はかわいそうなくらいにさらに怯えている。
大丈夫なのだろうかとフィアルカが心配していると、間を開けずして部屋に誰かが入ってくる。娼館の用心棒らしき巨漢と、件のアルファだろうかと思ったその瞬間――それまで普通の態度だったり、怯えていた室内のオメガ達の様子が一変する。
部屋に連れてこられたアルファは体格のいい、騎士のような体格の、「雄」という言葉がよく似合いそうな男だった。
万が一でも項を噛んだりしないようにと、猿轡に近いような口輪、手には枷、性器には貞操帯と、番と性に関するあらゆるものが厳重に封じられていた。発情期になんとか熱を逃がそうともがき苦しむ側の人間から見れば、あれはものすごく辛いだろうなと、他人事ながら心と胎がきゅっと怯えた。
そんなフィアルカのひっそりとした恐怖とは反対に、部屋にいたオメガ達は一様に高揚し、紅潮し、一瞬獣のようにギラついた瞳がとろりと熱に蕩けている。きっと胎が疼いて疼いて仕方がないのだろう。試情のアルファに縋る者すらいた。
しかし――
「君はやっぱり何ともない?」
「はい」
「……おやまあ。あの子の発情が効かないなんて、話は本当だったんだねぇ」
「そんな嘘は吐かないんだよなぁ……」
発情状態になったオメガ達はアルファから離され、それぞれの客の元へ連れていかれ、場にはフィアルカ達と試情のアルファだけが残った。1人残されてなお、アルファは自分を慰めることもできず、目は猛獣のように爛々としている。貞操帯の隙間から体液が腿を伝って落ちていくその生々しさにどきりとはするが、それ以上は何も起こらないし、変化はない。
アルファもまた、用心棒にどこかへ連れられていった。
「……あの方はこの後どうするのですか」
「抑制薬を飲んで発情を落ち着かせることがほとんどだね。たまにはオメガをあてがったりするねぇ」
「そうなんですね……」
アルファやオメガとしての能力の高い低いは、散々トラヴィスから聞いて理解はしていたつもりだが、いざこうして目の当たりにして、ようやく事実なのだとすとんと落ちた。
薬が効くのは羨ましいなと思う。自分の場合は発情が治まるまで、ひたすら耐える以外の方法がない。しかもそれを仕事とするのなら、かなりの頻度で発情しなければならないのだ。しかし――
「やれ」と言われたら一生懸命やらなければいけない。
「やる」と言ったのなら、もっとやらなければいけない。
やると言ったのだから頑張らなければならないと、フィアルカは不安を何とか心の奥に押し込んだ。
31
お気に入りに追加
46
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
可愛くない僕は愛されない…はず
おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる