試情のΩは番えない

metta

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5 試情のアルファ

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「ここの娼館で飼われているアルファは、威圧や発情を自分の意思で起こせるほどのアルファでね。その特性を利用して、薬に頼らずオメガを発情させるんだ。便宜上、"試情のアルファ"って呼んでる」
「飼われ……? なぜそれほどのアルファの方が」
「借金とか、色々、諸々、ね」
 
「僕も詳しくは聞いていないんだ」と、トラヴィスは曖昧に笑っている。
「知らなくていい」というよりも、「知らない方がいい」と主にも言われ、少し怖くなったフィアルカはすぐに疑問を引っ込めた。
 
「発情不全の治療のためにその子を借りることも考えたことはあるんだけど、万が一の事故の可能性もあるし、相手のアルファの本能による拒否が強い。その点、君ならオメガだし、その上相手のアルファと事故で番になってしまう可能性もかなり低い」
「なるほど……」
 
 フィアルカには発情を抑える薬は効かないが、発情を誘う薬はそれなりに効く。試情馬ならぬ試情のアルファ、もとい試情のオメガになれということだ。
 
「あと、一応この試情のアルファの発情が、君に効くかどうかも試しておきたくて」
「はい」
「じゃあ、そろそろ行こうかね」
 
 こっちだよ、と主に案内された場所には、すでに何人かの娼婦と男娼が待機していた。みな煌びやかな薄衣を纏い、様々美しいには変わりないが、慣れた風に寛ぐ者と、売られて日が浅いのか、明らかに慣れておらず怯えている者がいた。
 フィアルカ達が部屋に入ってきたのに気づいて、慣れた風な者はしなを作って笑顔で手を振ってくるが、怯えている者はかわいそうなくらいにさらに怯えている。
 大丈夫なのだろうかとフィアルカが心配していると、間を開けずして部屋に誰かが入ってくる。娼館の用心棒らしき巨漢と、件のアルファだろうかと思ったその瞬間――それまで普通の態度だったり、怯えていた室内のオメガ達の様子が一変する。
 
 部屋に連れてこられたアルファは体格のいい、騎士のような体格の、「雄」という言葉がよく似合いそうな男だった。
 万が一でも項を噛んだりしないようにと、猿轡に近いような口輪、手には枷、性器には貞操帯と、番と性に関するあらゆるものが厳重に封じられていた。発情期になんとか熱を逃がそうともがき苦しむ側の人間から見れば、あれはものすごく辛いだろうなと、他人事ながら心と胎がきゅっと怯えた。
 そんなフィアルカのひっそりとした恐怖とは反対に、部屋にいたオメガ達は一様に高揚し、紅潮し、一瞬獣のようにギラついた瞳がとろりと熱に蕩けている。きっと胎が疼いて疼いて仕方がないのだろう。試情のアルファに縋る者すらいた。

 しかし――
 
「君はやっぱり何ともない?」
「はい」
「……おやまあ。あの子の発情が効かないなんて、話は本当だったんだねぇ」
「そんな嘘は吐かないんだよなぁ……」

 発情状態になったオメガ達はアルファから離され、それぞれの客の元へ連れていかれ、場にはフィアルカ達と試情のアルファだけが残った。1人残されてなお、アルファは自分を慰めることもできず、目は猛獣のように爛々としている。貞操帯の隙間から体液が腿を伝って落ちていくその生々しさにどきりとはするが、それ以上は何も起こらないし、変化はない。
 アルファもまた、用心棒にどこかへ連れられていった。

「……あの方はこの後どうするのですか」
「抑制薬を飲んで発情を落ち着かせることがほとんどだね。たまにはオメガをあてがったりするねぇ」
「そうなんですね……」

 アルファやオメガとしての能力の高い低いは、散々トラヴィスから聞いて理解はしていたつもりだが、いざこうして目の当たりにして、ようやく事実なのだとすとんと落ちた。
 薬が効くのは羨ましいなと思う。自分の場合は発情が治まるまで、ひたすら耐える以外の方法がない。しかもそれを仕事とするのなら、かなりの頻度で発情しなければならないのだ。しかし――

「やれ」と言われたら一生懸命やらなければいけない。
「やる」と言ったのなら、もっとやらなければいけない。
 やると言ったのだから頑張らなければならないと、フィアルカは不安を何とか心の奥に押し込んだ。
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