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07 弱り目に祟り目
しおりを挟むスライムに犯され、サルファに犯されて最悪な気分のまま、グレンはまたひとつ、嫌な事に気がついてしまった。
「子種どころか大も小も出ない……」
スライムは体液や排泄物を好む。排泄等がないという事は、やはり身体のどこかにあの憎きスライムがいると言えよう。しかしどこを触っても変な気分になるだけで、何の反応もない。
「どこ行ったんだ……あのくそスライム……!」
グレンは感じてしまわないよう、恐る恐る腹を探るが、やはりスライムは見つからない。しかしとりあえずは食事をしても腹が膨れたり、スライムが蠢く事もなくなってはいたので今のところ問題ないといえば、問題はない。家は持ち家だし、貯金もそれなりにあるから仕事がしばらくできなくても、すぐに食うに困るような事はない。
ただ、いつまた変な事になるかも分からないというのは問題だ。故郷に「働かざるもの食うべからず」という言葉もあるしと、グレンは怠い腰を上げたのだが。
「グレン待ってたぞ」
「俺はお前に用はない」
様子見がてら簡単な依頼でも受けるかと足を運んだギルドで、グレンはサルファと鉢合わせ――というよりも、待ち伏せをされていた。
「一応礼は言う。礼は言うが、それ以上にお前は好き勝手やったし、何より何も解決していない。というか寄るな」
「何だよ減るもんじゃねーだろ。処女じゃあるまいし」
「この野郎……!」
そういう問題ではないし、処女か処女じゃないかで言えば、後ろに関してグレンはスライムに犯されたのを除けば、まごうことなく処女だ。そしてそもそも公共の場で言うことではない。
何とか依頼だけを受けたいが、サルファを突破するのはなかなか難しいし、かといって無視をすれば何か余計な事を喋りそうでもある。依頼を諦めて帰ろうとしても、きっとサルファは追いかけてくる。そうなれば、結局相手をしなくてはならないだろう。
どうしたものかとグレンが警戒した獣のように動けずにいると、何だ何だと口論に反応した野次馬達が集まってくる。どいつもこいつも寄ってくるなとグレンが腹を立てていると――
「グレンさん?」
「――――! エイル、待ってたぞ!」
「えっ」
野次馬の中に知った顔が見え、グレンは助かったとエイルの元に駆けて話を合わせてくれと囁く。エイルは面食らってはいるが、声には出さず、すぐに頷いた。察しがいい。
「何だぁ、このひよっこ」
「俺はこいつに用があって来てたんだ。お前には用がない」
「そうです。ご遠慮ください」
「――おい待てよ!」
しっしっと手を振って早足にギルドを出たグレンはエイルを連れ、しばらく無言で歩き続けてサルファが追ってくる気配がなくなったところでようやく止まる。グレンは顔の前でぱちんと手を合わせて、「助かった」と頭を下げた。
「本当にすまない。依頼を請けにいく途中だったろう」
「あ、いえ。今日の仕事は終わって、報酬の精算に来ていたので急ぎではないです。あの、さっきの人は……ええと……処…………いえ、何でもありません」
「それは忘れろ」
「はい」
「処女」と言いかけて口をつぐんだエイルに念を押せば、素直に頷く。そのままどうか記憶から消して欲しい。
「頼み事したら酷い目に遭わされたというか……説明しづらいが、正直しばらく話したくもないし、顔を見たくないぐらいだったから……本当に助かったよ」
「いえ、俺はまた時間を置いて戻ればいいだけですし。でも、グレンさんこそギルドに用があったのでは」
「いや、あいつがいるなら今日はもう諦める。本当に助かったよ、ありがとな。じゃあ、また」
「はい、お疲れ様です」
また飯でも奢るよと言って別れ、何の収穫もなく家路につく。しかし歩き始めてすぐのことだった。
「冒険者のグレンで間違いないか」
「……誰だお前ら」
人通りの少なくなったところで、グレンは複数の男達に囲まれてしまった。今日は待ち伏せの日なのだろうか。本当についていない。
「お前に用がある。ついてきて貰おう」
「俺は用などないのだが」
抵抗しようか。しかし相手はそれぞれ実力がありそうだ。擦れた雰囲気もなく、どこか貴族の私兵か何かのように見える。一対一ならともかく、多勢に無勢では厳しいだろう。火の魔術を使えば抵抗する事も可能かもしれないが、街中で放つわけにもいかない。
(ん……?エイル……?)
どうしたものかと考えていると、遠くからこちらを観るエイルの姿が目に入った。別れたはずなのに、何かに勘づいたのだろうか。
(助けを求めるか……?……いや、)
駄目だ。きっと実力的にグレンではこの複数の男達には敵わないし、エイルが加わっても多勢に無勢に変わりはない。そもそもサルファから逃げるために巻き込んで、こんな事にも巻き込んでしまうなど、いかがなものか。
そう判断したグレンが小さく首を横に振ると、エイルは何となく理解したようで、そのまま姿を消す。グレンはホッとして「話すだけなら」とついていく事を了承した。
「どこに行くんだ」
「……」
「だんまりか」
何処にいくのかという質問を黙殺されながら、ただ足を動かし連れていけば、向かう先は気のせいでもなんでもなく、花街だった。
「何でこんなところに」
「……」
そう思っていても、結局誰も答えはくれず。
頭に不快な疑問符を浮かべたまま、到着した場所は、花街の中でも比較的高級な店だった。
しかし、派手さなく最上級ばかりで構成された高級店とは違い、分かりやすい成金臭い高級は、身も蓋もない言い方をすれば少し下品だなとグレンは思った。
案内された店の奥には柔和な顔立ちの身なりのいい男がいて、グレンを見てにっこりと笑った。
「こんにちはグレン君」
「あんたは誰で、いきなり何の用だ」
「挨拶くらいは返してくれてもよくない? ま、いいや。僕が誰かはちょっと答えられないかな。ちなみにここは借りてるだけだから、覚えても無駄だよ」
まあ、それはそうだろう。グレンも途中までは諸々記憶しておこうと覚えながら歩いたが、目の前の男自体は恐らく花街の人間ではない。なら言う通り店は場所貸しだけだ。
「何の用かっていうと、君の中に入り込んだスライムの話をさせてもらいたくてね。君、三日前にダンジョンでスライムプールに落ちたでしょう」
「……何の話だ」
「びしょびしょで怒りながら歩いてたっていう目撃証言はそこそこあるし、そういうのはいいから。君が引率した新人冒険者からも話は聞いているから、誤魔化しても無駄だよ」
胡散臭い笑みを浮かべる男は「単刀直入に言うね」と笑みを深める。
「あのスライムさあ、僕のなんだよね」
「――!俺が散々な目に遭ったのはお前のせいか……!」
「それはこっちの台詞だよー! せっかく作ったのがやっと大きくなったのに、倒してくれちゃってさぁ……でも、研究は概ね成功といったところかなぁ」
そう言って男はにっこりと笑みを深めた。自分を値踏みするように観る目つきが不快で、グレンは虫を見るような目で男を見返した。
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