霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/02/28

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2020/02/28

 趣味のビリヤードに興じる事2時間、雑事に思い係ってはキューの先が斯様に鈍るとは思いもせなんだ。思い悩み事の切っ掛けと言うのは自分にとって幾らかの例外は有れど大概は彼の一言に起因するのが常であって、本日も御多分に漏れずまぁそれだ。

 「学生の時に覚えてればさぞかしおモテになっただろうにねぇ?」
 「この腕前でか?笑えもせんな」
 エンドレス14-1も既に8周目に突入せんとした折唐突に投げられる皮肉に思わず返してしまった。とは言え深夜の店内には他の客は無し、独り言をつぶやいたとて下階の店員に怪訝な表情を向けられることもあるまい。

 しかし先程の発言はあまり好ましくない。いや、皮肉であるかどうかはあまり重要ではないのだが、「たられば」の話は壮大な空想癖には良き土壌となり過ぎる。「もしあの頃に戻れたら」などと言った仮定は折々にしすぎる程夢想してきたのだが、それでもし尽くせぬだけの後悔が過日に溢れているのもまた事実なのだ。

 もし今の精神のまま学生の頃に戻れるとしたら?それはさぞかし当時以上に都合の良い男が出来上がっていた事であろうよ。元よりそんな用途で良く振り回されたもので、催し事の間に合わせ、独り身の見栄張り、単純な暇つぶし、金目当て、その他諸々都合良く使い潰して下すった皆様に今更恨み言の一つも湧き様は無いにせよ、此方も楽しもうとする分だけ今の方が幾らかマシにはなってきているのだろう。一度所有権さえ主張してくれれば、扱いの善し悪しに文句は付けず、他に目移りもせず、「飽きた」と放り出そうが食い付かず引き下がる。その執着の無さをつまらないと言う我儘者もあれば割り切って遊ぶ放蕩輩もまた多く、まぁそれなり程度に退屈は無かった記憶が有る。

 「また棘々しくなってんねぇ」
 「構うもんけ、『一番になるのは無理って分かってる』なんて薄弱な意思で近寄られて此方も良い気分になれる訳がねぇんだから」
 半生振り返ってはみたものの「一番を乗り越える」などといった気概の持ち主に心当たりの有った例がないのだから強ち言い過ぎと言う程でも無い筈だ。それだけ愛される価値が自身に無い事を理解しても居るのだからそんな奴原を貶めた所で責められる道理も有るまい。

 「お前が一番でお前だけ居れば良い人生なのよ」
 「それを言われたらお互い様としか返せないなぁ」
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