霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/02/23

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2020/02/23

 本日何十度目かの嚔をひり出しリビングデッドも斯くやと呻き声を上げ続ける最中に「いい加減鬱陶しい」と苦言を呈される所から今日の会話は端を発した。

 「つれねぇなあ、何であれ許容して貰えるって話じゃあ?」
 「逆に聞くけど大した意味も無い『うー』だの『あー』だのまでフォローして貰えると思う?」
 「…ごもっともで」
 存外に懐が狭いな、甲斐性無しめ。
 「聞こえてんぞ浮気野郎」
 「おっといけねぇ」

 此方は湿り気を帯びる鼻を啜り上げて聞こえない振りをしたがダムの決壊を悟って鼻紙に手を伸ばす。
 「昔は花粉症に掛かってる連中をひっそりと馬鹿にしていたもんだが」
 「自業自得だね」
 色んな意味で全く返す言葉が無い。

 「薬買いなよ、多少はマシでしょ」
 「…おくすりきらい」
 「面倒臭いだけでしょうが」
 お見通しとは恐れ入る、まぁ抑々その類の薬の効能を疑ってかかっているのも要因の一つではあるのだが。

 「鼻詰まりに気を取られて話してくれないのは嫌だよ?」
 「そこまで重篤でもないとは思うが…そうなったら検討しようかね」
 成る程矢鱈に突っかかると思えば真意は其処に有ったと見える。外出は避けたかったが明日の容体次第ではドラッグストアに足を運ぶ羽目になるやも知れない。

 そう言えば君は花粉症の気など有ったのだろうか。問いかけようとして口を噤んだ。自分が知りようも無い事を答える術は無いのだ、無用に困らせるのは本意ではない。

 夏と、秋と、冬と、一つずつ季節を過ごしたが、春の陽気に佇む君の姿を拝む機会には遂に恵まれなかったことは数少ない心残りの一つとも言える。恋人らしく逢引に連れ出す手を思いつかなかった事、友人家族に紹介する契機を得られなかった事などは然程に重大事でもないのだが、穏やかな陽光に包まれる春の装いを一目焼き付けておきたかったと珍しく後悔が過る。君の言う通り鼻詰まりで思考に靄でもかかったのか、ぼんやりと浮かんでは消えていくそんな独白の群に暫し気を取られていた。
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