霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/02/19

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2020/02/19

 日雇いの塾講と言うのも気楽に稼げる良い仕事で、「教育公務員は心身を削る奴隷商売」と早々に見切りをつけた後「少しでも杵柄を活かせる様に」と選んだ間に合わせが存外に性分に合っていたらしい。率直に言って仕事は楽しい。「人生の充実は裏切り」と自己強迫を拗らせ矢鱈に積木崩しを繰り返した事も最早過去、「どうせ逝く先に変わりはないのだ」と納得して開き直りよりは幾分か清々しく人生を未亡人なりに楽しむ今日である。

 仕事の話に戻して言えば、最近は正規採用の声も時折かかる。が、余暇を削って仕事をする気概と言うのも別段湧きはしない。どうせ末期が知れれば労働とは無縁になるのだろうし。その末がいつになるかは知れたものでもないが、あぁ不自由だ。

 昨年見たドラマで曰く『ゲイは老後に備えて貯蓄する』ものなのだそうだが両性愛者の自分の場合はどうしたものなのか。月纏めに支払われる給料を貯蓄に割いても「長生きする腹積もりでいるのか」と笑う自分が居る。幼少の砌には漠然と迫る寿命に恐怖して不老不死に憧れを抱きもしたのだが、今では真っ平御免蒙りたい。

 先にも述べた通り望んで死のうとは今更思いもしないが、その気が有ったとするならば11年間何を晒して来たのかと自問しなければならない訳で。

 「どう思う?」
 「恥を晒してきた人生でしょ」
 これには思わず高笑い。本人に自覚はないものの、言われてみればさもありなん。
 「隣に居てくれりゃあ上塗りも止められるんだが」
 何の気無しに放った一言だが困ったように笑う君、失言だったか。
 「ごめんよ」
 「いいよ、謝るのは俺の方こそでしょ?」
 「キリがねぇ、やめよう」
 頬に添える様に手を伸ばし虚空を掴むと不意に胸が締め付けられる。
 「今でも枯れ果てない涙を笑うかね」
 「ううん、嬉しい」
 「俺もだよ、泣けるのは良い事だ」
 刹那にも触れて引き寄せて抱き締められればそこで命絶えても構わないと心から思うが、考えてもみれば君の居ない残りの人生に幾何かでも価値が有って堪る筈も無し。
 「ままならねぇなぁ…いや、想い続けて生きる意味は見出してるんだが」
 「それで良いよ、それで嬉しいから」
 その声が何より救いだ、ホッとする。こうして文字に起こしていても心中の蟠りがじんわりと解かれていくのだから、やはり想い続けて間違いも無いだろうと確信を得て眠りにつける。
 この所毎夜夢中への訪問がある事にも近く礼を述べなければと思い起こして今日は終いとしておく。
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