霧開けて、明暗

小島秋人

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七人目の友人

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  七人目の友人

 義務教育から次の学種に進み、訪問販売の仕事とは手切れとなった。肩書からすれば需要は尽きなかった筈だが、単純に言って飽いていた事が理由としては大きかったと記憶している。

 手切れ金の支払いに難儀したが幾らかの手持ちを残して、身の丈よりは少々背伸びして生活が出来る程度の自堕落を謳歌していた。遊び場に繰り出し、新しい環境と其処で作った知己とは適度な距離を保った生活を心掛けていた

 当時の若者にとって同級生の紹介と言うのは限られた出会いの手段の一つだった。其の友人もそんな経緯で縁を結んだ一人だ。あどけなさの残る、屈託の無い笑顔は今も鮮明に脳裏に焼き付いている。

 友人には交際して間も無い恋人が居た。友達としての期間が長かったと語る彼女と触れ合う様子は成程、傍目にも気心の知れ合った其れに見える程度に円満だった。

 彼女の方とも親交を結ぶ機会を得た私は持ち前の人付き合いの良さで直ぐに打ち解けた。友人を伴って彼女の家に招待を受ける程度、と言えば其の度合いも知れるだろう。最初の内は若い二人にとって逢瀬の障りに成りはしないかと慮ったものだが、無用の気遣いと一蹴された事が何より嬉しかった。

 そんな間柄で在れば包み隠す事も無い、私は自身の性に就いて早々に暴露していた。其れで関係が壊れる筈は無いと思っていたし、事実その場では物珍しさ以上の嫌悪めいた感情を向けられる事も無く済んだ。本当にその場限りだったが。

 友人から唐突に同性との行為に言及された時にも、不仕付けを窘めたくなる様な不快さは無かった。好奇心程度の事ならば明け透けに語る事に抵抗は無い、其れ程友愛の情は天井を知らなかった。

 冗談めいて「試してみるかい」と口を滑らせたのも、私からすれば全く他意は無かったのだと言い訳を許されたい。冗談じゃないと一蹴してくれれば其れで良かった、まさか逡巡を見せよう等と、予想の仕様も無かった。

 仕事から離れて半年は過ぎようかと言う頃合い、男性の肌に対する邪な渇望は沸々と煮え始めていた。事の善悪に関する基準も未だ破綻から取り戻せて居なかった私にとってはほんの出来心だった。行為の途中で「やっぱり無理だ」と言い出すだろう。言わなければ、まぁ据え膳と。その程度にしか捉えていなかった事を、今でも酷く悔いている。

 事の露呈には友人の耽溺が端を発していた。まさか彼女を蔑ろにし兼ねない程に彼も素養を持ち合わせていたとは予想の範を超えていた。

 「良い友達だと思ってた、信じてたのに」

 目を覚ますのに其の一言を要する程度に、倫理観の欠落は回復の余地が無い境地に在った。後年に成って人伝に二人の仲は回復したと聞けた事は救いとなったが、その後暫く私には他人の皿に箸を伸ばす悪癖が付いてしまっていた。

 悪癖は数年を経て最高学府に進んで後も尚続いていた。当時出会った男女の殆どが他人の皿から摘み食った相手ともなると、長い熱病の期間を持ったものだと今にして思う。不細工が一丁前に恋愛玄人ぶってたんだから本当救えねぇよ。死にたい。
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