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愛の守護りは君にこそ

42-1

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 ~42-1~

 晴天の日差し、船の舳先に掻き分けられる波音、頬を撫でる潮の香り。
 「なるほど、船旅の気分とはこう言うものですか」
 「悪くないもんだろ?」
 頭上から掛けられる言葉に首肯する。更にそれに応える様に旋毛に添えられた掌はその後執拗に髪を手櫛で梳いてくる

 「…なんです?」
 鬱陶しいと言う程ではない、手慰みに使われるのは常のことだった。
 「なに、潮風でべたつく前に堪能しておこうと思ってな」
 「あぁ、それは思い付きませんでしたね…分かっていてデッキにお誘いになったのなら大した性根と言わざるをえませんが」
 「たった半日の船旅だ、酸いも良いも早々に味わっておかなければ損かと思ってな」
 潮風なら数ヶ月もすれば厭と言う程身に受ける羽目になる筈なのだけれど。それとも国が違えばべたつきにも違いが出ると言うのだろうか。帰ったら調べてみる事にしようと思った。

―――

 「それにしても、まさかご生家がこんなに近場に有ったとは」
 船内のレストランで悪い意味で値段不相応の夕食とも言えない物を形ばかり詰め込んで間も無く、フェリーはパレルモの港に着いた。

 「…そう言われると些かの恥を感じないでもないな」
 おや、そんな心算は無かったのだけれど。
 「ここを飛び出した当時は一大決心の大冒険の様な心持ちだったんだが…今になって思えば家出が良いところだな」
 本気で恥じているらしい、隣席から聞こえる声色に自嘲と落胆の入り交じった気配を感じた。話題を変えた方が良さそうだ。

 「それで、ここからは?」
 船着き場から然程も離れていない場所で何かを待つ様に立ち尽くすところを見るに次の足にはアテが有るのだろう、とは思うのだけれど。
 「あぁ、もうぞろ出てくると思うんだが…」
 …出てくる?

 ―――

 「…てっきり地元の方に迎えを頼んでいるのかと思っていたのですが」
 フェリーの船倉から現れた見慣れたワゴン車に肩透かしを食らう形となった。普段と変わり映えの無い面子では旅情もあったものではない。

 「十年以上音信が途絶えていた相手に移動手段を供してくれる友人には心当たりが無くてな…」
 隣席に腰掛けるあの人が申し訳なさそうに笑う。
 「お前のこった、どうせ『家出の前に散々問題を起こして地元民とも折り合いが悪い』って所だろう」
 「…言ってろ」
 運転席の店主の突いた図星は当たらずとも遠からずと言ったところらしい。唸るような溜息を吐くなり二の句を返せないでいるようだった。
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