例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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愛の守護りは君にこそ

40-3,41-2,40-4

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 ~40-3~

 思い返す内に催してしまった。用足しを容易くするため下履きを身に付けていない事が災し、オーバーサイズのシャツが自身に因って持ち上がる。裏地に擦れる感触を楽しんでも良いのだけれど、明らかに其れと解る染みを亭主に洗濯させると言うのも気恥ずかしい。ともすれば夜伽の言葉責めに新たなバリエーションが加わり兼ねない。それはそれ、悪くない風情やも知れないが。

 書斎に据えられた壁掛け時計を見遣るに間も無く正午に差し掛かろうと言う時間、『昼食は一緒に』と言って出て行ったから間も無く帰宅してもおかしくない。であればと、車椅子を玄関に向ける。

 ___

 ~41-2~

 トラムを降車して一路自宅を目指す,言うまでも無く慣れ切った道程だが歩調は心なしか遅い。結局義父の懇願に押し切られて策を打ち明けてしまった。提案に満足した義父は当人が言うところのコンサルト料,実際は口止めの意図を多分に含むのであろう封筒を押し付けるように寄越すと追い出すように私を見送った。

 『これで一件落着としろ、金輪際関わる事は許さん』言葉にこそしなかったものの、貫禄ある人物の目線は時に至極雄弁となる。『明確に釘を刺された訳ではないのだから』と独断専行に走るならその後の面倒までは見ない。警告と言うよりも、其れを聞かぬ阿呆を切り捨てる際に己を良心の呵責から保護するロジックとするための過程なのだろう。

 後ろ楯その者に頭を抑えられては身動きの取りようもない。『サービス』とやらは逃すに惜しいが別の手を考える他無さそうだ。懐の重さからもう一方の問題は解決の目処が立った事を幸いと思うべきだろう。そう納得してもなお、足取りの重さが解消するには今ひとつ心の癒しが必要そうだと感じる。鈍る足に鞭打って叶う限り足早に家路を進んだ。

 ___

 ~40-4~

 「…昼日中から誘われるのにも慣れてきちまったな」
 帰宅早々、玄関で待ち構えていた自分を一瞥して手近なソファに放り込んだあの人は革帯の金具を外しながら呟いた。

 「申し訳ありません、お帰りを待つ間に催してしまって」
 既に露わになっている胸筋に吐息を吹き掛け煽る様に答えた。先ほどの回想の一夜から暫くして気付いた事だが、この人は体毛が薄い割に産毛が多いらしく息を掛けられると過敏に反応するようだ。

 「謝る事でもない、俺もお前に触れたいと思ってた所だ」
 「おや、首尾はよろしくなかったので?」
 自分としては喜ばしい事であるがお可哀想な事である。精々存分に慰めて差し上げるとしよう。

 「後で話す、満足したら昼食にしよう」
 「夕食の間違いでは?」
 「…お前に体力がついたのはパートナーとして大変に歓迎すべきだがな、こっちは腹もそれなり減ってるんだ」
 良いことを聞いた、食欲の分だけ乱暴に貪って貰うとしよう。そんな気分を表情からか察したのか、あの人は観念した様に困り笑いで口付けながら自分の腰をしっかりと掴んだ。
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