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愛の守護りは君にこそ

40-1

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 ~40-1~

 我ながら姑息な手を使うものだと、自省と言うよりも自嘲に近い感情で自分の言動を振り返る。こうまで脅しかけておけば危険を侵すにしても物事の優先順位を取り違える事はないだろうと、わかっていて心にも無い請願を悪態の上に乗せて見せている。それでも、そうすることであの人が『先ず二人が生きる事』を原理に置くと知っては気が進まずともせざるを得ない。自分の言葉であの人の行動の箍を外せると言う事実は既に一度実証済みであったのだから。

 土壇場での裏切りによって齎された孤立無援の状況。あの人は躊躇いなく知人に向けて引鉄を引いた。『それが仕事だから』?そう乱暴に括れる話でもないだろう。本当は、自分以上にあの人自身が血と鉄の世界から己を遠ざけたいと願って止まないことを知っている。

 ___

 「まだ仕事の詳細を聞けているわけでもない、検討して…割に合わないと思えば蹴り付けて帰って来るさ」
 どこを取って信用しろと言うのか極めて判断の難しい捨て台詞と共に逃げるように玄関を飛び出したあの人を白眼で見送った。念入りに釘を刺して一安心、と言っても感情的に納得はしている筈がないので演技の必要も無い。隠さない感情をぶつけられることも其れはそれで一つの幸せとして享受する、なんて懐の深さは年若い自分には備わっていなくて当然だろう。

 久々に一人きりで過ごす時間、どう費やしたものか。悩んでみたところで選択肢の有ろう筈は無い、車椅子のレバーを繰って書斎へと向かった。

 ___

 日がな頁を捲る、ないし端末の液晶を擦る為に顎先に挟んだ棒切れを振るだけの生活と言うのは我ながら不健康極まりない。そう思いつつ、寧ろここ数年で随分体力がついた自覚があった。以前はふと午睡に落ちてしまう事が多かったと言うのに、今ではあの人に夜更かしを嗜められる程度に身体も脳も覚醒している時間が増えたのはどう言う事だろう。

 まぁ考えるまでも無く夜毎の運動が影響しているのだろう。それについて自分が文字通り精力的に取り組むようになったのは初めての夜から暫くの時間を要したのだが。

 身体の瑕疵をそうと気付かれぬように慮るあの人は兎角自身の主導で事を運ぶ傾向が強く、最初の頃は自分が何を仕掛けるでもない内に夜を終えていた。それでも丁寧に、しかし丹念に互いの快楽を高めようと繰り出される手練手管をひたすら受け身になって体感するのは悪い気分ではなかった。実際にして、経験の浅い自分には児戯に等しい愛撫ですら至上の快楽足り得たのだから。

 しかし人間は刺激に慣れるのが早い生き物だ。見せ物小屋で与えられた諸々の責苦も回を追う毎に慣れていったのと同様に語るのは申し訳ないが、ただ一方的に蹂躙されるだけと言うのは心理的にも退屈が影を忍ばせることを禁じ得ない。早い話が若干マンネリ気味だったのだ。

 となれば行動を起こさねば。そう決心した自分は今の己にできる奉仕について有らん限り調べ、また試行した。手頃なサイズの腸詰を怒張に見立て舐めしゃぶる訓練、馬乗りになり腰を振るための腹背筋のトレーニング。時折目的を見失って夢中になった結果仮眠用の簡易寝台を生臭くしてしまった事も有った。ストローマグの中身をぶち撒けて誤魔化したつもりではあるが果たしてアレは勘付かれていたのやら。
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