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愛の守護りは君にこそ

39-3

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 ~39-3~

 口喧嘩の合間に何とか割って入り『返事を保留にしたい』という旨を伝えると女は案外あっさりと承諾した。

 「結論は変わらないでしょうから、『待てる女だ』と言うことを印象付けた方が好感度が上がるでしょう?」
 それを明け透けに告げるのもまた同様、か…実際若い割に大した良い女振りと言えよう。半狂乱のチワワの様に唸り声しか上げなくなった伴侶の手前声に出す愚行を犯す気は無いが。

___

 「それにしても…あの出立ちはなんです、食人鬼の医学博士でもあるまいに」
 知恵熱でダウンしたチワワをボックス席のソファに寝かせた後義父を問い詰めんとカウンターに並んだ。
 「…娘っ子と甘く見ん方が良い、正直アレでも足らんくらいだ」
 女の飲み残したをウォトカの瓶を小突きながら溜息混じりに答えた義父曰く、ちょっかいを掛けた若い組員が随分と痛い目を見たと言うことらしい。

 「運び先は国内、大した距離ではない…ナポリ経由で半日もあれば着く」
 「それが今日に至って達成できていない、つまり邪魔が入っているわけですか」
 「すでに組員が何人かやられた、手際を見るに相当の手練…どうも同業の類いだな、アレは」
 義父が言うのであれば相当に手強いと考えて良いだろう。従軍経験者は人類の歴史と共に増えていくのだから始末が悪い。増えた分だけ相場も下がるのか最近ではあちこちで軍人上がりが幅を利かせているらしい。

 「あの女自体を餌にしてこちらの弱体化を狙っていると言う線は?」
 少々雑な手とも思うが、じゃじゃ馬を使い潰すと言うなら合点もいく。
 「腕の欠損はその邪魔者の襲撃による傷だ…どうやら件の組織に内部分裂が起きているようでな」
 義父は口元を隠すように手を組み声を落として言った。

 「手の者の調べではどうもあの娘今ではそれなりのポジションにいるらしい、こちらの人員を減らすのにそこまで出血する必要を感じんよ」
 出血、と言えば文字通りだな。そう言った箍の外れた謀も好みそうな女にも見えたが…真意は知りようも無い。結局、厄介ごとの種を他所に押し付けるより仕様が無いという訳だ。

 「…」
 思案の為所である。報酬の具体的な金額に言及したわけではないが状況から見て危険手当は相応に付くと見て良い。交渉次第では組合にも多少の金銭を要求できるだろう。

 「やられた組員、もしやお手勢ではないのでしょうね?」
 「無論だ、娘っ子一人の護衛に態々部隊を動かす訳がなかろう」
 しかし状況が状況だけに今後はそれすらも辞さない事になりかねないだろう。いや、それなら寧ろ…

 「…どうでしょう、一つ考えが有ります」
 隣席に腰掛ける義父の視線が此方に向く。無言で続きを促しているのを肌で感じた。

 「一口乗って頂けるのであれば、仕事をお受けしても良いと」
 言い掛けて口を噤む。ソファに寝かせてた子犬が寝返りを打つ音が耳に入った。

 「…明日、事務所に伺いますので」
 「あぁ、こちらも他に詳細を詰めねばならん用件が多いでな」
 席を立った義父を隠し通路の入り口まで見送って私達も店を後にした。
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