例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

32-2

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~32-2~

 「………か」
 独白に暫し微睡んでいた自分を現実に引き戻すのははいつもこの声だった。心身を共に此岸に繋ぎ止められているようで、身命のあらゆるを委ねる心持ちは何にも代えがたい至福だった。

 「おい、大丈夫か」
 判然としない意識の最中返答を繰り出せず居た自分に再び声が掛かる。

 「…ごめんなさい、暗い場所だからか睡魔が」
 変に気取った所でどうなるものでもないのだから正直に手落ちを認める。眼前の広い背中の其の先から低い笑いが届いた。

 「大した肝の太さだのう、大人になったら其奴と一緒にうちの部隊に来ると良い」
 今度は供回りの二人組もそれは良いと笑った、不快な物は感じないが独特の芝居臭さを禁じ得ない。初めて相対する軍属と言う人種に人知れず我知らず心が浮き立つ様な感覚が走る。自分も男の子と言うヤツらしい。

 「その時分にはこの人の腕が錆び付いているのを願いたいものですが、今もってこの有り様でしょう?」
 調子を合わせる心算で態とらしくやれやれと付け加えると大袈裟な程の笑いが前方から返る。精々肩身の狭い思いをなさいましと暖かな背中を額で小突いた。

 「各々がた今は空き巣に入る真っ最中とはお忘れなく」
 不服を隠す様子もなく語気にそれを多分に含ませたあの人に今度は自分を含めた全員が噛み殺すように笑いを漏らした。

 「まぁ一理有る、彼此10分なら直線距離でそろそろ着いても良い頃合いだ」
 今度ばかりは細く重く発せられた言葉に返答はなかったものの、自分以外の全員が装具を整えるために身動ぐ気配が感じ取れた。

 負われた背中も得物を持ち直したのだろうことが重心の移動で伝わってくる。常であれば味わうことの有り得なかったその感触、その頼もしさに何とも言えぬ昂りが込み上げていた。

 こんなことなら、もっと早くに我が儘を言ってみても良かったのかも知れない。
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