例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

回想-3

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 回想-3

 眼前の中年男は知らぬ仲でもなく、其れなり以上に義理も有る相手だ。観念した私は大きく溜め息を吐いてから口を開く。元々、今日は其れを話す心算で此処を訪れたのだから。

 「10年前の、覚えてますよね」
 口調を意図的に当時の物に戻す、察しの良い兄貴ならこれで気付くだろう。

 「何だ唐突に………おい、まさか」
 数秒を何かを思い出すのに費やした兄貴は思わずと言った様子で安楽椅子から尻を剥がした。

 「確かなのか、証拠は」
 吃驚とも困惑ともつかぬ表情で此方を窺っている。無理もない、そんな偶然などそうそう有るものでは無いのだから。当座に眼前の全てを得心し黴臭い地下室で百年の人生設計を決めた私こそ異常なのだろうとは自覚していた。

 「兄貴は彼女と面識が無いからなぁ、もし顔を知ってれば疑う余地無く納得したんじゃないですかね」
 そう、“あの日”檻の中で抱き上げた彼を一目見て確信していた。喜ばしいことに“あの日”左腕に抱いていた赤子は瓜二つと言える程母親の面影を残していたのだから。

 「…他ならぬお前の言だ、確かに、疑う余地は、無いか…」
 再び安楽椅子に掛け直した兄貴は両手で顔を覆い暫し沈黙する。当人よりも深刻な面持ちが指の隙間からも見て取れた。

 「…名乗ったのか、父親だと」
 重々しく顔を上げた兄貴はとても私に視線を向けられないらしい。背凭れに体を預けた後は再び右掌で顔を覆う様に頭を抱えていた。

 「それがどうにも機会に恵まれず」
 ハンカチで濡れた衣服を拭いながら事も無げに答えた。

 「馬鹿野郎…どうするつもりなんだ」
 消え入りそうな声で問い掛けとも落胆とも付かぬ呟きを漏らす兄貴。未だ視線を交わす気には成れないで居るらしい。

 「今日来たのはその為なんですよ」
 最早ハンカチ程度ではどうにもならないと悟った私は胸ポケットに其れを納めカウンターに肘をつく。

 「どうして今のような状況になっているのか、俺では肝心な所が説明できないんです」
 倒れたグラスを手に取り弄びながら溜め息を吐く。

 「尻切れ蜻蛉じゃ格好がつきませんし、何より聞かされるアイツが不憫で」
 グラスを端に除け懐に手を入れた私は用意した札束を三つ、カウンターに積み上げた。

 「教えて下さい、兄貴が知っている限りの経緯を全て」
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