例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

19-6

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 ~19-6~

 夜陰に紛れ路地から路地へと身を隠しながら帰路についた。

 「居場所を知られたくは無いだろう、好きに使うと良い」
 老紳士がそう言い残して寄越した英国車を教会から歩いて小一時間程の倉庫街の端に乗り捨てて来た為心身ともに疲労困憊の有様だ。明晩に予定していた中立派幹部宅への訪問は後日に見送ろうと心に決めていた。しかし何よりも、今は寝台に体を放り投げて全て忘れて眠りに落ちたい欲求が全身を占めていた。

 「お帰りなさいませ」
 小用にでも目を覚ました所だったらしい、眦を蕩かした彼がバスルームから出てくる所に出会してしまった。間の悪い事だ、共に暮らし始めた頃襁褓を嫌って真っ先に一人で用を足す特訓を始めていたが、こんな事で裏目に出るとは思うまい。

 「…あぁ」
 生返事をしつつ彼を車椅子から抱き上げ寝室に向った。未だ睡魔に襲われているらしい彼は恍けた様子で此方を見上げてくる。

 「お疲れなのですか?一緒に寝ましょう?」
 あぁ、こんな時でも君は俺の心身を慮ってくれるのか。細やかな一言に窺える彼の想いが疲弊した心身に染み込むように感じる。限界だ、彼を固く抱き締めた儘その場に膝をつく。

 「大丈夫?何処かお怪我を?」
 漸くただ事ではないと察した彼が不安そうな声を上げ私の顔を擦る。違う、此れは、涙を拭っている。抑々自身が落涙していたことにすら気付いていなかった。

 「…お前はどうしたい?」
 絞り出せたのは其れだけだった。
 暫く考え込む彼は「何を?」とも「貴方の考えは?」とも聞かなかった。ただ、一言。

 「…貴方の望みが、僕の望みが、互いの望みである、そう在りたいと」
 あぁ、そんなにも男らしい一言を、そんなにも愛らしい微笑みで囁かれては、溶けてしまいそうだ。
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