例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

19-2

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~19-2~

 「日和見を自称するならもう少し穏やかに訪問出来んのか」
 苦々しく呟く店主に対して鷹揚に肩を竦め応える。

 「此方は努めて紳士的に訪ねてる心算だぞ?現に人死には出していない」
 元を質せば、店主の手持ちに件の骨董品使いに繋がる情報が無かった事に端を発している。特異な得物で腕前は一級品、探し出す条件としては絞り込みに事欠かない筈の其奴はしかし噂程度にも話題に上がった痕跡が無い。

 であれば、と私が先ず取り掛かったのは先の襲撃当時大量に雇い入れられた掃除屋連中の身元確認だった。聞く所に依れば急進派は遮二無二人員を掻き集めたと言う話、奴が紛れ込む隙としては十分だろう。無論老紳士も同様の可能性を考えていない筈はなかったが、疑わしきを片端から問い詰られる程の権能を持たない彼の人に強硬な調査は望むべくも無い。

 「お前の言う『穏やか』の定義を聞く気は無い、無用な敵を増やすなと言ってるんだ」
 「『有用な敵』の定義とは?」
 「混ぜっ返すな、真面目な話だ」
 表情に険が増す様が見てとれる、些か揶揄い過ぎたか。

 「元々此方を造反者と決めにかかっている連中だ、俺の図体が荒事を避けて潜り込むのに向いていれば話も違っただろうが」
 生憎に私の体格は夜陰に紛れ幹部の居室に忍び込むには少々恵まれ過ぎていた。

 「せめてルガーを抜いていないだけ褒めて欲しい物だ」
 実際にして警備に就いていた人間の処理は瘤を拵える程度に収めていた。重症でも顎を割るくらいのもので命に関わる怪我は負わせずに今日までやって来ている。

 「お説教はもう結構、今の所成果は無し、急進派の懐中に潜り込んでる訳ではなさそうだ、他に質問は?」
 立て続く店主の小言に愈々嫌気が差した私は簡潔に本題を纏める。屈強な警備を伸し名うての侠客を尋問に掛けるリスクを負った割に合わない成果に文句を述べたいのは此方の方だった。

 「…後方の車はお前の迎えか?」
 「何だ、お前も心当たりないのか」
 言うが早いか私は懐に、店主はコートの背中に手を回しそれぞれの得物を点検する。

 「乗務員には済まない事したな」
 「俺の顔見知りだ、金も掴ませてるからその辺も織り込み済みだろうさ」
 事も無げに答えた店主は車掌に目配せする。頷いた車掌は運転席に向い運転士に何事かを伝えた。

 「次の曲がり角で速度を落とす、飛び降りたら近場の路地に駈け込め」
 その後は見習いに車を回させて逃げ出そうと言う魂胆らしい。

 「其れが良いだろうな、どうせ終点にも迎えが来てるんだろうし」
 逃げる算段が付いているなら無闇にリスクを負う必要も感じなかった私は店主と共に途中下車する事に決めた。
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