例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

19-1

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~19ー1~

 人気の無い路地を足早に進む。彼が寝付くのを待って外出する事を厳に自身に課している以上仕方の無い事ではあるが、今日は些か昔語りに興が乗り過ぎた。路面電車の終電は間も無く最寄りの駅に着いてしまう筈だ。今日に限って面倒な待ち合わせ方法を指定してくれたものだと心中で店主に悪態を漏らす。大通りのプラットホームに駆け上がった時には既に此方に向かってくる車輌の姿を視界に捉えていた。

 車掌に終点までと伝え規定の運賃を渡しながら車内を見渡し店主の姿を認めた私は隣に腰掛ける。

 「息が早いな、走ってきたのか」
 真暗な車窓の先に視線を置いたまま店主が口を開いた。

 「昔話に花が咲いてな」
 此方も同様に相手に顔を向けず答える。

 「あぁ…まぁ、事情も知らずに巻き込まれるのも不憫だろうよ」
 酷く歯切れの悪い口調だ、何を慮っている心算なのやら。

 「肝心な話は何も出来てないんだがな、それで進展は?」
 早々に本題に入らなければ此方の居所が悪い。

 「一部の組員がお前の屋敷に家捜しに入った、造反の証拠を抑える魂胆らしい」
 無感動な声で告げる店主、向かいの窓に映る表情から心中を読み取るのも難しかった。唯一疲労の色は、はっきりと表れているようだったが。

 「主導は急進派、目付に古参の守旧派から数名が同行して事に当たっている」
 「御苦労な事だな、此方に損は無いが向こうは手詰まりの感が酷いんじゃないか」
 私達が襲撃を受けた事が周知であれば造反者との繋がりが無いことも明らかだろうに。

 「先の事務所に押し入った連中から情報が引き出せなかったからな、其れでも何かしらの動きを見せない事には面目も保てない」
 「組織には其れが有るから面倒だ、一人で動く事に決めて正解だったな」
 他人事の様に吐き捨てる。事実既に私とは関わりの無い事と割り切っている。初めて店主が此方に視線を向けた。

 「そう言うお前は成果の一つも有ったのか」
 少々痛い腹を突かれる、そう言えば最近はギブアンドテイクのバランスに偏りが有っただろうか。

 「お前の持ってきた話を組合に流す事で敵を切り崩すって計画だろうが」
 そう、結局立ちはだかる全てを個の武力で排しきれる訳もない。現在の私の行動指針は、身軽さを活かして情報収集に当たる事で陰ながら炙り出しの手伝いをする日和見の手法に落ち着いている。
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