84 / 166
例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度
19-1
しおりを挟む
~19ー1~
人気の無い路地を足早に進む。彼が寝付くのを待って外出する事を厳に自身に課している以上仕方の無い事ではあるが、今日は些か昔語りに興が乗り過ぎた。路面電車の終電は間も無く最寄りの駅に着いてしまう筈だ。今日に限って面倒な待ち合わせ方法を指定してくれたものだと心中で店主に悪態を漏らす。大通りのプラットホームに駆け上がった時には既に此方に向かってくる車輌の姿を視界に捉えていた。
車掌に終点までと伝え規定の運賃を渡しながら車内を見渡し店主の姿を認めた私は隣に腰掛ける。
「息が早いな、走ってきたのか」
真暗な車窓の先に視線を置いたまま店主が口を開いた。
「昔話に花が咲いてな」
此方も同様に相手に顔を向けず答える。
「あぁ…まぁ、事情も知らずに巻き込まれるのも不憫だろうよ」
酷く歯切れの悪い口調だ、何を慮っている心算なのやら。
「肝心な話は何も出来てないんだがな、それで進展は?」
早々に本題に入らなければ此方の居所が悪い。
「一部の組員がお前の屋敷に家捜しに入った、造反の証拠を抑える魂胆らしい」
無感動な声で告げる店主、向かいの窓に映る表情から心中を読み取るのも難しかった。唯一疲労の色は、はっきりと表れているようだったが。
「主導は急進派、目付に古参の守旧派から数名が同行して事に当たっている」
「御苦労な事だな、此方に損は無いが向こうは手詰まりの感が酷いんじゃないか」
私達が襲撃を受けた事が周知であれば造反者との繋がりが無いことも明らかだろうに。
「先の事務所に押し入った連中から情報が引き出せなかったからな、其れでも何かしらの動きを見せない事には面目も保てない」
「組織には其れが有るから面倒だ、一人で動く事に決めて正解だったな」
他人事の様に吐き捨てる。事実既に私とは関わりの無い事と割り切っている。初めて店主が此方に視線を向けた。
「そう言うお前は成果の一つも有ったのか」
少々痛い腹を突かれる、そう言えば最近はギブアンドテイクのバランスに偏りが有っただろうか。
「お前の持ってきた話を組合に流す事で敵を切り崩すって計画だろうが」
そう、結局立ちはだかる全てを個の武力で排しきれる訳もない。現在の私の行動指針は、身軽さを活かして情報収集に当たる事で陰ながら炙り出しの手伝いをする日和見の手法に落ち着いている。
人気の無い路地を足早に進む。彼が寝付くのを待って外出する事を厳に自身に課している以上仕方の無い事ではあるが、今日は些か昔語りに興が乗り過ぎた。路面電車の終電は間も無く最寄りの駅に着いてしまう筈だ。今日に限って面倒な待ち合わせ方法を指定してくれたものだと心中で店主に悪態を漏らす。大通りのプラットホームに駆け上がった時には既に此方に向かってくる車輌の姿を視界に捉えていた。
車掌に終点までと伝え規定の運賃を渡しながら車内を見渡し店主の姿を認めた私は隣に腰掛ける。
「息が早いな、走ってきたのか」
真暗な車窓の先に視線を置いたまま店主が口を開いた。
「昔話に花が咲いてな」
此方も同様に相手に顔を向けず答える。
「あぁ…まぁ、事情も知らずに巻き込まれるのも不憫だろうよ」
酷く歯切れの悪い口調だ、何を慮っている心算なのやら。
「肝心な話は何も出来てないんだがな、それで進展は?」
早々に本題に入らなければ此方の居所が悪い。
「一部の組員がお前の屋敷に家捜しに入った、造反の証拠を抑える魂胆らしい」
無感動な声で告げる店主、向かいの窓に映る表情から心中を読み取るのも難しかった。唯一疲労の色は、はっきりと表れているようだったが。
「主導は急進派、目付に古参の守旧派から数名が同行して事に当たっている」
「御苦労な事だな、此方に損は無いが向こうは手詰まりの感が酷いんじゃないか」
私達が襲撃を受けた事が周知であれば造反者との繋がりが無いことも明らかだろうに。
「先の事務所に押し入った連中から情報が引き出せなかったからな、其れでも何かしらの動きを見せない事には面目も保てない」
「組織には其れが有るから面倒だ、一人で動く事に決めて正解だったな」
他人事の様に吐き捨てる。事実既に私とは関わりの無い事と割り切っている。初めて店主が此方に視線を向けた。
「そう言うお前は成果の一つも有ったのか」
少々痛い腹を突かれる、そう言えば最近はギブアンドテイクのバランスに偏りが有っただろうか。
「お前の持ってきた話を組合に流す事で敵を切り崩すって計画だろうが」
そう、結局立ちはだかる全てを個の武力で排しきれる訳もない。現在の私の行動指針は、身軽さを活かして情報収集に当たる事で陰ながら炙り出しの手伝いをする日和見の手法に落ち着いている。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

守護霊は吸血鬼❤
凪子
BL
ごく普通の男子高校生・楠木聖(くすのき・ひじり)は、紅い月の夜に不思議な声に導かれ、祠(ほこら)の封印を解いてしまう。
目の前に現れた青年は、驚く聖にこう告げた。「自分は吸血鬼だ」――と。
冷酷な美貌の吸血鬼はヴァンと名乗り、二百年前の「血の契約」に基づき、いかなるときも好きなだけ聖の血を吸うことができると宣言した。
憑りつかれたままでは、殺されてしまう……!何とかして、この恐ろしい吸血鬼を祓ってしまわないと。
クラスメイトの笹倉由宇(ささくら・ゆう)、除霊師の月代遥(つきしろ・はるか)の協力を得て、聖はヴァンを追い払おうとするが……?
ツンデレ男子高校生と、ドS吸血鬼の物語。

ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。


真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる