例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

文字の大きさ
上 下
65 / 166
例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

14-2

しおりを挟む
~14-2~

 目を開けると白い天井。街の中心地に位置する総合病院の一室であることに気付くまで然したる時間は必要としなかった。あの人に引き取られてから暫く健康状態の診断に幾度と無く通い続けた記憶が眼前の配色と紐付いた。であれば、と傍らに視線を移すと案の定堅苦しい面持ちで直立する愛しの君。

 「…謝罪は無用にお願いできますか」
 努めて笑顔で語り掛ける。右肩に感じる痛みは銃撃に依る其れと想像はついたがこの人の心痛とは較ぶべくもない。押し込めて笑みを浮かべる事に何の苦労が有ろうか。

 「…なら、俺の決意だけは聞いてくれないか」
 右手に握った拳銃を左手に持ち替え、空いた右手を自分の頬に添えてきた。何れだけの間、如何な力加減で握り締めて居たのか、真白く強張った手に顔を傾け頷く。

 「…殺すよ、奴を」
 悲しく笑ったあの人の言葉は単純明快。

 「奴に限らない、俺達の幸せの妨げに為る奴等は片端から殺し尽くしてやる」
 眉間に寄った皺は苦悩と哀しみの深さをありありと物語っているのに。

 「そうして二人だけの世界で生きよう」
 口許に浮かべる笑みは自嘲する其れではないと確かに感じたのだった。


 「…今朝のプロポーズは一際情熱的でいらっしゃる」
 その決意を無為と吐き捨てる心算は毛頭無かった。

 「病院のベッドで一戦交えるのも一興ですね、此方は御覧の有り様ですが受け身なら何の事はありませんし」

 御互いの経歴を思えば、自然に幸福が降りてくる事は決してない。寧ろ自然な流れに身を任せればこうなるのだと言う教訓が得られたのは僥倖と言って差し支えない。

 「だから」
 ならば

 「沢山注いで下さいね?」
 無数の屍の上に愛の城を打ち立てる事に何の気兼ねが有ろうか。

 許可を出すが早いか覆い被さってくる。垣間見える男気は虚勢か本心か。此れでもし壊れ物でも扱うように触れてきたら渾身の力で噛み付いてやろうと決めていた。後にして思えば杞憂で終わったのだけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ファントムペイン

粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。 理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。 主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。 手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった…… 手足を失った恋人との生活。鬱系BL。 ※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...