例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

12-2

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~12-2~

 食後の片付けをあの人に押し付けた自分は書斎に籠り読書に耽る。此頃特に気に入っているのは格言諺の類いを纏めた字引、或いは哲学書の類いだ。とは言え、満腹を伴っている現状では迂遠なそれらの書物に食指が動く訳もない。

 読書机に山と積まれた分厚い硬表紙を押し退け引っ張り出したのはショート・ショートの文庫だった。元々は書斎ではなく寝室の書架に置かれていたあの人のお気に入りである。

 数日間おねだりを繰り返して漸く手元に置く事に成功した文庫を暫し捲っていると背後からノックの音がした。「どうぞ」と答えるとあの人が入り口のドアから顔を覗かせる。

 「少し出掛けたいんだが、付いて来てくれるか」
 振り返ってみると片手にはリネンの上衣を提げておりご自身は今にも出て行ける恰好。瞬きの間でも返答を渋れば置いて行く心算ではないのかと焦った自分は早々に文庫を閉じ車椅子を入り口に進めた。

 「またあのお店ですか」
 今更仕事の話と自分を遠ざける意味も無いだろうに何を気遣っておられるのか。そんな不満も取り敢えずは呑み込んで行先を訊ねる。

 「数少ない味方だ、今日の今日だが情報の共有はしておきたくてな」
 あの耳の早さなら無用の事ではないかとは思わない。態々訪ねるだけの理由が有っての事なのだろうと察しはついたけれど、やはり気乗りはしなかった。

 「…店の匂いが嫌いなのは知っている」
 表情に表れて居たのだろう、眉を顰めて此方を見るあの人の声色には謝意以外の弱音を感じた。

 「それでも、今日は一緒に居てくれないか」
 あぁ、もう。そんな言い方をされてしまっては堪らない。喜色満面を自覚しながらもそれを隠さず両腕をあの人に差し伸べる。応じる様に抱き上げたあの人の横顔に頬擦りして腕先で襟足の辺りを擦り答える。

 「寂しがりのご主人様の仰せでしたら、何処へでも」
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