例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

11-6

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~11-6~

 言葉にならないのだろう、嗚咽はいつしかうなり声にも似た低い叫びに変わっていった。私に出来る事と言えば、彼が満たされるまで抱擁を解かず背を擦る程度しか思い付かない。

 やがて叫びが辿々しい呟きに変わっている事に気付く。繰り返される其れが
 「良かった」
 と言う安堵の声で有ることに気付くのにはそこから更に時間を要したが。

 「…そうだな、お互い無事で本当に良かった」
 安堵から溢れる涙を恐怖からの物と取り違えていたことを内心で恥じた。尤もらしく彼の本質を理解した心算でいても結局はこの程度だ。自身の身の危険を案じたのではなくとも、互いを失うという点に於いて言えば確かに恐れも有ったのだろうと思う。しかしどちらにせよ私の推察が的外れであった事に変わりはない。

 「本当に良かった…貴方を独りにしないで済んで良かった」
 嗚咽混じりに絞り出されたその一言に再度驚愕を覚える。最早凄まじいまでの形相で振り絞る涙と同じくらい止めどなく溢れる彼の愛に溺れて死んでしまいたいとすら思えた。

 考えてみれば道理としか言う他ない。彼と私の思いの丈に上下が無いのであれば、先ず憂うのは己が相手を失う苦痛ではない。

 相手が己を失う苦痛だ。

 自分ならばきっと耐えられない。ならば相手も同様なのだろう。なればこそ、その苦痛を相手に背負わせる事こそを何よりも厭うて然るべきだ。

 何れも仮定に過ぎないそれらを真実と確信するからこそ、共に生きようと決めたのだから。
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