例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

8-5

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~8-5~

 身体が浮き上がり食卓に下ろされる。卓上の茶器を押し退けたあの人が首許に食らい付く。グラスが床に倒れ落ちる音がした。これが硝子の弾ける小気味良い音なら格好がつくのだろうけれど、気の利き過ぎる男が樹脂製のグラスを持ち出してくれたお陰で何とも間の抜けた音が室内に響いた。

 そんな事はお構い無しに自分の身体をまさぐり貪るあの人。しかし首筋に当てられた口唇が行う事と言ったら、舐め上げるか吸い付くか、噛み付いたとしても歯は立てていない。

 「僕の愛しい獣」は食器を押し退ける所作こそ乱暴だったが決して牙は剥かなかった。ちぐはぐなその行動を見ると高ぶった情欲は慈愛へと変わってしまう。成る程斯くも堅固に焦げ付いた理性を削ぎ落とすのに酔いの力を借りようと言うのは理解できる話だった。自分が被虐趣味ならばきっと物足りなさを感じたのだろう。

 しかし自分は被虐趣味ではない。この人に限って何をされても許してしまう淫売である事を今更否定する気もないけれど。

 「好きだ」

 「好き」

 「好き」

 「大好き」

 吐息や嬌声を多分に含みながら交わされるただ一つの言葉は最早どちらの物とも付かない。其れほどに互いの想いは止めどなく、しかしたった一つ其れだけに終始していた。
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