例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

8-2

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~8-2~

 「構いません、大事なお話だったのでしょう?」
 事此処に至っては無理に不機嫌さを顕に我儘を振り撒くよりも理解有る伴侶ぶりを示した方が可愛いげが有るのではないか。そう考えた自分は顔に添えられた手に頬擦りし口付け先程とは一転して余裕ぶった笑みを作りながら告げた。我ながら浅知恵と思えなくもないが、少なくとも何時も我儘ばかりで飽きられるのは嫌だった。

 見るとあの人は酷く意外そうな顔を浮かべている。これは「珍しい事も有るものだ」と喉まで出掛かったのを飲み下した結果だろうと察した。意図しての事ではあるけれど、そこまで驚かれるのも心外だ。

 「どうかなさいました?」
 あくまでも自然に、笑みは崩さず怪訝な表情は抑えたつもりで訊ねてみる。思わず浮かべたその表情にどう言い訳をするのか少し楽しみだった。

 「いや…」
 何かを言いかけて慌てて口を噤む。今朝も失言で自分の機嫌を損ねてしまった事を思い出し慎重に言葉を選ぶつもりなのだろうと思った。でもそんな逃げは許さない。

 「何を思ったのか知りたいです、正直に仰って?」
 体を寄せ上目遣いで問い掛ける。我ながら高級娼婦も顔負けの演技だと自嘲したくなるのを必死に抑える。少し態とらしかったかと言う反省も過ったのだけれど。おねだりが功を奏したのかは分からないがどうやら観念したらしいあの人は口元に手を置きながら告白する。

 「いや…ただ、お前の邪気の無い笑顔はそんなに愛らしかったのだな、と」
 言うが早いか急激に顔に赤みを差したあの人は耐え切れなくなったかの様に顔を反らす。良く見れば耳まで赤くなる程に照れているらしい。

 自分はと言えば、思いがけぬ逆襲に一瞬呆気に取られたが紡がれた言葉を反芻する内に羞恥が移ったらしい。競い合うように顔を赤らめる二人の間に暫しの沈黙が流れる。不快なものではない。とは言え限界がある、耐えかねた自分はあの人の胸元に顔を埋め絞り出すように呟いた。

 「…照れるなら最初から仰らないで下さい」

 「思えば明るい場所で改めて見る機会もそう無かったかと思って」

 「本当に止めて下さい」

 言葉を遮って懇願するように額を胸板に擦り付けた。初めての房事から早半年、普段明るい時間には皮肉をぶつけ合う様にしてしか言葉を交わしていなかった自分達は、恋人同士の様な甘い語らいには未だ慣れていなかった。
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