例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

7-5

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~7-5~

 「最終的な目的は敵の行動を誘引する事だ」
 「知っての通り裏切り者は恐らく幹部、ないし準幹部の誰か、という所までは判明している」
 「そこで前主任の死後間も無く緊急に会合を開き幹部同士が互いに警戒、監視を行うことで炙り出しと潔白の証明を並行して行う方針に決まり、現状は各々が独自に動いている」
 「だが、まぁ、有り体に言えば成果は一向に出ていない」
 「膠着に焦れた年若い幹部の中には『いっそ疑わしきは全てパージして新体制を』などと冗談めかして言い出す連中まで出始める始末でね」

 「それはまた豪胆な」

 「笑い事ではないよ」
 「実際監視役同士の鉢合わせから有らぬ疑い、不要な火種が生まれかねない局面も発生し始めている」
 「この混乱が幹部連中の決めた悪手による偶発的な物なのか、造反者が意図的に混乱を煽ったのかすら分かっていないのだからもう御手上げだね」
 
 口をつくに任せて語り口の止まらない老紳士に時折相槌を返す私は密かに冷や汗をかいていた。一体何処まで内情を吐露するつもりなのか、いや最早引き返せない所まで耳に入れてしまっている気もする。

 「そこで最初の話に戻り、君には周囲が動き易くなる起点を勤めてもらう」
 そこまで言い切った老紳士は再び卓上のカップを手に取り口に含む。飲み干してしまった其れをカウンターに控える側近に差し向け代わりを注ぐよう促した。

 「勝手にあちこち動き回ってぶつかるくらいならいっそひと所に集めてしまえ、と、私も大概乱暴だがね」
 新たに注がれた珈琲の薫りを楽しんでから一口飲み下した老紳士は話し始めた時よりもやや投げ遣りに告げた。

 「常時監視と護衛をつけるとは言ったが、折を見て監視の網に隙を作るつもりでいる」
 卓上に置き直したカップの縁をなぜる老紳士、声のトーンはやや落ちている。

 「恐らく他の幹部連中が差し向けた監視役は君が某か掴んでいると考え距離を狭めてくるだろう、その中に造反者の一派が紛れてくる可能性は高いと踏んでいる」
 老紳士の浮かべる表情には見覚えがあった。そう、会計士の仕事を薦められた時にも同様の表情を浮かべていたのだった。

 「君はそこで接触してきた連中について報告をしてくれれば良い」
簡単な事だろうと言わんばかりの字面ではあるが

 「要は餌になれ、と」
強行手段を取りに来る可能性について敢えて言及しないのは狡いな、と思った。
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