例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

7-3

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~7-3~

 暫くして差し出された珈琲を口にした私は思わず溜息を漏らした。成る程自ら申し出るだけの腕前は有る様だ。

 「美味い物だろう?毎朝此れを楽しめる事が秘かな自慢でね」
 満足げな笑みを浮かべる老紳士は自身も一口カップを啜ると其れを卓上に戻す。表情は一転して真剣な物に変わり、私も同様にカップを置いて居住まいを正す。背の荷物は本人の許可を得て膝の上に移動して貰っていた。

 「先ずは情報交換と行こう、其方か何処まで掴んでいるか、正直に話してくれるね?」
 口調はあくまでも柔和に、しかし有無を言わせぬ強さが有った。此方は元より隠し立てするつもりは無い、昨夜店主から得た情報を其の儘伝えると老紳士の表情は寧ろ感心するかのような面持ちへと変化していった。

 「彼の情報網の広さは知っていたが、それにしても良く調べているようだ」
 恐れ入ったねとおどける様に付け加えた老紳士は護衛の一人に目配せする。視線を受けた護衛が胸元に手を差し入れるのを見て一瞬身構えたが、此方の緊張を察してジャケットをゆっくりと広げてから内ポケットに手を伸ばす様を見て取り敢えず座り直す。

 護衛が取り出したのはそれなりの厚みを感じさせる茶封筒だった。護衛から其れを預かった老紳士は中身を確認すると其の儘私の前に差し出した。

 「念の為、中身の意図を伺いたいのですが」
 まさかとは思うが「其れを持って街から失せろ」などと言われては堪らない。

 「安心して欲しい、純粋な口止め料だよ」
 大仰に両手を上げ首を振る老紳士、素直に受け取って良い物なのか却って心配になっている私に対して更に言葉を続けた。

 「貰ってくれなければ困る、酒場の彼にも同額を掴ませているのだから不公平になるだろう」
 言外に受け取るか否かで忠誠を量る心算が無い事を示してくれているのだろう。無言で頷き茶封筒に手を伸ばした私は其処で漸く自身が上着を身に付けて居ない事を思い出し苦心しつつも其れをズボンのポケットに捻じ込んだ。

 「其れはこれから話す内容も含めての口止め料だ、その心算で聞いて欲しい」
 そう前置きをした老紳士は再び眼前のカップに手を伸ばし中身を一口飲み下すと満足そうな溜息を吐いてから口を開いた。
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